【上司の心得①・自分を責める前に】部下が適応障害。診断書は、あなたへの判決文ではない

適応障害と診断された部下について、上司と担当者が机をはさんで面談している様子 働き方・経営

「あの仕事を任せたのは、私だ」

「あの日、もう少し早く声をかけていれば」

診断書を受け取った夜、そう繰り返していないだろうか。

はじめまして。参謀医Reimyです。精神科専門医で、働く方の診療はもちろん、EC事業を営んでいた時期もあります。このブログ『わが子への手紙』は、大きくなったわが子の将来に役立つように書き始めました。心のことを、専門用語をできるだけ使わずにお伝えしています。

この記事は、適応障害と診断された本人ではなく、その人と一緒に働く側に向けて書いています。部下に何が起きているのかが分かると、上司の迷いは減ります。

こんなあなたへ

  • 部下が適応障害と診断され、自分の関わり方が原因だったのではと悩む
  • 本人の話と、周りの職員から見える景色が食い違っていて、どちらを信じればいいのか分からない
  • 退職を切り出されたとき、自分の失点として受け止めるべきか迷っている

読めば、適応障害の原因をどう見立てるかと、上司であるあなた自身が潰れないための線の引き方が分かります。

⏱ 10秒まとめ

  1. 適応障害は、環境と本人の組み合わせで起きる。原因が上司ひとりに集まることは、殆どない
  2. 本人の語りは真実だが、全体ではない。上司と第三者の視点を足して、はじめて見立てになる
  3. 抱え込むほど判断は鈍る。産業医や主治医(精神科)という「他人」を、早めに戦列に入れる

診断書は、あなたへの判決文ではない

適応障害の診断書は、上司の落ち度を証明する書類ではない。

国際的な診断基準では、適応障害は、はっきりしたストレスの出来事や状況に対して、その人の心と体がうまく折り合えず、強い苦痛や生活・仕事への支障が出ている状態として定義されている(1)(2)。原因となる出来事と、それを受け取る本人と、その両方がそろって成立する診断だ。

裏を返せば、原因となっている状況が変われば、多くは回復に向かうとされている(1)。適応障害は、治せる状態である。ただし、本人にとっての環境が変わらないままでは、治療は難しい。

診断書は、「この環境と、この人の組み合わせが、いま噛み合っていません」という報告書に近い。誰かを裁く紙ではない。

とはいえ、軽く見てよいという意味でもない。適応障害は軽くて短期間で終わるものと考えられてきたが、診断がその後も続いたり、別の精神疾患に移行したりする人が一定数いることが示されている(3)。「そのうち慣れる」で放っておいてよい状態ではない。

診断書に書いてあるのは、病名と、必要な休養や配慮の期間、そして勤務についての医学的な指示だけだ。誰が悪かったのか、上司の指導が適切だったのかは、書かれていない。書いていないことを受け取った側が想像で埋めない。ここが最初の関門である。

三者で会う——本人の話は真実だが、全体が見えるわけではない

職場の不調で受診された方には、できれば上司や同僚、家族にも一緒に来てもらう。

誰と何を話すかは、だいたい決まっている。

誰と話すかここで見ているもの
1本人だけいま何が一番つらいか。安心して話せる場をつくる
2本人+上司や同僚同じ出来事を、二人がどう語るか。言葉の温度差
3上司や同僚だけ本人の前では言いにくい、職場から見えている景色
4もう一度、本人だけ職場から聞いた話を、どこまで・どの時期に返すかを見極める

順番は、必要があれば柔軟に入れ替えるし、何度も繰り返す。ここに家族が加わることもある。一つの面談で全部が分かることは、まずない。

なお、職場の人を診察に同席させるかどうかは、主治医によって考え方が違うので、必ずしもこの通りではないかもしれない。

職場から聞いた話を本人に返すかどうかは、その時々で変える。返す時期も、内容も、本人の状態しだいだ。急いで突き合わせると、休むための面談が、責められる面談になってしまう。

健康に関する情報を職場や家族から集めるときは、目的を伝えて本人の同意を得ておくことが前提になる(4)。

確かめるのは、本人ができる以上の量や責任になっていなかったか、上司が本人の力を高く見すぎ(あるいは低く見すぎ)ていなかったか、任せる前後にすり合わせの会話があったか、そして睡眠や持病、体力といった体の状態はどうか。大きくこの四つである。

ここで、よく起きることがある。上司は「仕事を与えすぎた」「厳しくしすぎた」と自分を責めて来られる。ところが本人と話すと、指示された以上のことを完璧に仕上げようとしていた、別の同僚との関係が苦しかった、家庭や体調の事情が重なっていた——そんな話が出てくる。

上司の言動が引き金になっている場合もあるが、それだけが原因でないことが多い。

すれ違いは、能力ではなく間合いの問題

100%同じ考えを持ち、以心伝心できる他人は、この世に存在しない。

伝えたつもりが伝わっていない、相手の感情や考えを違う意味で受け取っている、ということは必ず起きる。部下のわがままに見えていたものが、実は限界のサインだったこともあれば、上司の理不尽な要求に見えていたものが、期待の裏返しだったこともある。

上司の意図部下の受け取り確かめる一言
期待しているから任せた押しつけられた、逃げ場がない「この量、正直どう? 多いなら組み替える」
負担をかけまいと外した戦力外だと思われた「今回は外したけど、次はどう関わりたい?」
早く帰れるよう気を遣った見放された、話を聞いてもらえない「言いにくいこと、ひとつだけ教えて」

職場の側の要因も、ひとつではない。仕事の量と裁量のバランス、長時間労働といった働く環境の要因が、心身の不調と関連することが多くの研究の集積から示されている(5)。上司の言動だけが原因という、きれいな一本道にはなりにくいということだ。

診断書を受け取った上司が、一人で背負い込む必要はない。責任を感じてしまう人ほど、他に原因がある可能性を残しておいてほしい。

退職という結末を、あなたの失点にしない

異動や業務の調整を尽くしても、その会社や仕事が本人に合わないことはある。

適材適所という言葉がある。合わない布陣で無理に戦わせるより、撤退して別の場所を探したほうが、本人の力が生きることもある。結果として退職になったとしても、それをあなたの敗北として数えないでほしい。

人は人、自分は自分。ここで線を引けるかどうかが、次の部下を守れるかどうかを決める。

休養から復職、そして「異動しても良くならないとき」の考え方は、シリーズ②で具体的に扱う。

上司にも、上司の疲れがある

部下を支える人ほど、自分の不調を後回しにする。

外来には、上司の立場の方も来られる。特定の部下と話すときだけ動悸がする、汗が出る、その日の朝から気が重い、眠れない。そういう相談は珍しくない。

私がまず一緒に見直すのは、生活だ。心の疲れだけでなく、体の疲れから来ていることが少なくない。睡眠時間、食事、休みの日の過ごし方。ここが崩れたままだと、部下への対応を工夫しても空回りする。

そのうえで、部下との会話のしかたを一緒に組み立てていく。ひとりで考えると、どうしても「自分が悪い」か「相手が悪い」の二択に寄っていく。第三者が入ると、選択肢はもっとあると分かる。

上司自身の受診・相談を考える目安

  • 眠れない、途中で目が覚める日が2週間以上続いている
  • 特定の部下や会議の前に、動悸・発汗・腹痛などが出る
  • 休日も仕事のことが頭から離れず、楽しめない
  • 食欲が落ちた、または食べすぎが止まらない
  • 「自分さえ我慢すれば」と考える時間が増えた

イギリスの企業を対象にした調査では、管理職にメンタルヘルスの研修を行っている組織ほど、人材の定着がよく、心の不調による長期の病欠が少ないという関連が報告されている(6)。ある時点での関連を見た調査なので、研修をすれば必ずそうなると言い切れるものではない。ただ、上司が学び、相談できる場を持つことは、上司ひとりの問題ではなく、組織の話だということは言える。

なお、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、ストレスチェックの実施が従業員50人未満の事業場にも広がることが決まっている(7)。小さな会社ほど、上司と経営者が同じ人であることが多い。自分を診る人が自分しかいない状態を、そろそろ変えていく時期に来ている。

私が病院で見た、仕組みの話

不調の人がひとりいると、その穴は必ず誰かが埋めることになる。

以前、心の不調をきたしている医師と同じ職場で働いたことがある。遅刻が続き、欠勤も珍しくなかった。当番がその医師と一緒の日に不在だと、その医師の分の患者さんが私のところへ流れてくる。

こういう時、責める先をその医師にしてしまいがちだ。しかし負担が誰かに集中するのは、その人が休んだからではなく、誰かが休むと回らない仕組みになっているからだ。一人が抜けても回る形に組み替えるのは、本人ではなく、組織の仕事である。

その医師との距離の取り方も大事だ。挨拶はきちんとする。けれど、深い話には踏み込まない。調子を崩しているときは、普通の口調の声かけさえ、攻撃のように感じられることがあるからだ。近づきすぎず、離れすぎず。間合いだけは、こちらが調節できる。精神科医同士ではさらに難しいなと思う。なぜなら病や治療の知識があるからこそ「自分が病だから距離をとられている」と感じ取られやすく、それが負担になってしまうと距離の取り方は失敗かもしれないからだ。

具体的な業務量の減らし方や体制づくりは、以前の記事「部下が適応障害になったら|上司の正しい接し方と『働かせ方』」にまとめている。

よくある質問(FAQ)

Q1. 診断書を受け取りました。上司として、最初にすべきことは何ですか?

A. まず、診断書に書かれた指示にそのまま従ってください。休養の期間や勤務の制限は、交渉するものではありません。そのうえで、産業医と人事に共有し、精神科主治医との連絡役を決めておくと、その後の判断が早くなります。本人に伝えるのは「読みました。指示どおりにします」の一言で十分です。

Q2. 本人の話と、周りの職員の話が食い違います。どちらを信じればいいのでしょうか。

A. どちらも信じてください。本人が語っているのは、本人に見えていた事実です。周りが語るのも、その人に見えていた事実です。食い違いは嘘のしるしではなく、視点の数のしるしです。判断は、産業医や精神科主治医を交えた場で、情報をそろえてから行ってください。

Q3. 「上司のせいだ」と言われました。謝るべきでしょうか。

A. 事実として行きすぎた言動があったなら、そこだけを謝ってください。全部を引き受ける謝罪は、かえって本人の整理を難しくします。心当たりがはっきりしないときは、「そう感じさせたことは重く受け止めています。何が一番つらかったか、落ち着いたら教えてください」と返すのが現実的です。

Q4. 部下のことを考えて、私自身が眠れません。上司が受診してもいいのでしょうか。

A. もちろんです。上司には上司の悩みがあり、それは我慢して済む種類のものではありません。産業医の面談でも、精神科・心療内科の受診でもかまいません。あなたが倒れると、その部下の居場所を守る人がいなくなりますし、他の部下を守れる人もいなくなってしまいます。

おわりに

部下の診断書を受け取った日のことを、上司はよく覚えているものだ。自分の采配を、一つずつ巻き戻しては確かめる。あの配属、あの一言、あの締め切り。

その丁寧さは、あなたの弱点ではない。部下の不調に気づける人は、たいてい、そういう人だ。

ただ、覚えておいてほしい。人の心が折れるとき、原因はいつも複数ある。あなたはそのうちの一つかもしれないし、一つでもないかもしれない。全部をあなたの責任にしてしまうと、本当に直すべき仕組みが見えなくなる。

背負っているものを、いったん置いていい。そして、産業医と精神科主治医という他人を、あなたの陣の中に入れてほしい。参謀は、ひとりで戦況を読まない。

心が変わると、すべてが変わる。——職場も、部下との関係も、人生も。

参謀医Reimyより

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シリーズ「上司の心得」

  • 【上司の心得①・自分を責める前に】部下が適応障害。診断書は、あなたへの判決文ではない(この記事)
  • 【上司の心得②・休養と復職編】休ませたのに良くならない、と思ったら(近日公開)

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免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状や対応に迷う場合は、産業医や精神科医などの専門家にご相談ください。なお、記事中の事例は、複数の症例をもとに再構成し、個人が特定されないよう細部を変更しています。

参考文献・参考資料

(1) World Health Organization. ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics: 6B43 Adjustment disorder. 2025年版.  

(2) American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR). Washington, DC: American Psychiatric Association Publishing; 2022.  

(3) Morgan MA, Kelber MS, Bellanti DM, Beech EH, Boyd C, Galloway L, Ojha S, Garvey Wilson AL, Otto J, Belsher BE. Outcomes and prognosis of adjustment disorder in adults: A systematic review. Journal of Psychiatric Research. 2022;156:498–510. doi:10.1016/j.jpsychires.2022.10.052  

(4) 厚生労働省. 「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年10月策定、平成21年3月・平成24年7月改訂).  

(5) Niedhammer I, Bertrais S, Witt K. Psychosocial work exposures and health outcomes: a meta-review of 72 literature reviews with meta-analysis. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health. 2021;47(7):489–508. doi:10.5271/sjweh.3968  

(6) Hassard J, Dulal-Arthur T, Bourke J, Wishart M, Roper S, Belt V, Leka S, Pahl N, Bartle C, Thomson L, Blake H. The relationship between line manager training in mental health and organisational outcomes. PLOS ONE. 2024;19(7):e0306065. doi:10.1371/journal.pone.0306065  

(7) 厚生労働省. 改正労働安全衛生法等の施行に関する案内(2025年5月14日以降、段階的に施行).

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