「あと5分」
「さっきもそう言ってたよね」
夏休み、こんな会話をしていないだろうか。
こんにちは。参謀医Reimyです。 神職と参謀の家系に生まれた精神科専門医で、二児の母。EC事業を営んだ経験もあります。
「夏休みの画面」シリーズ(全3回)の①です。 この記事は、自分から選んで遊ぶ「ゲーム」の話。②は流れてくる動画・テレビ、③はSNSを扱います(末尾にリンク)。 主に小学生以上のお子さんがいる家庭を想定しています。
この記事は、こんなあなたに向けて。
- 夏休みに入って、子どものゲーム時間が一気に伸びた
- 「もう取り上げようか」と、何度も思っている
- 毎回の「やめなさい」バトルに、正直つかれた
読めば、怒らずに終われる声のかけ方と、時間より先に見るべきポイントが分かります。
⏱ 10秒まとめ
- 問題は制限そのものより、押しつけ方にある。
- 終わり方は、始める前の30秒で決まる。
- 守れた日に「守れたね」と言う。それだけで次が変わる。
頭ごなしの禁止は、たいてい裏目に出る
ルールを作ること自体は悪くない。問題は、伝え方だ。
ここは大事なので、ていねいに書きたい。
10代を対象にした研究では、親の制限のしかたがいくつかのタイプに分かれた。頭ごなしに押しつけるタイプ、理由を説明して子どもの気持ちも尊重するタイプ、その混合、ほとんど制限しないタイプ。
このうちいちばん良くない結果と結びついていたのが、押しつけるタイプだった(1)。
同じ「1時間まで」でも、「うるさい、決まりだから」と言われるのと、「夜遅くなると眠れなくなるからね」と言われるのとでは、子どもに残るものが違う。
そしてもうひとつ、見落とされがちなことがある。
親が我慢している空気も、子どもにはしっかり伝わる。
「私も見たいのを我慢しているんだから、あなたも」。そう思って親が自分を抑えても、子どもは「じゃあ僕も我慢しよう」とはならない。伝わるのは、家の中のピリピリした空気だけだ。
こっそり隠れてスマホを見ていても、子どもは驚くほど気づいている。
試験の前だけ、旅行の間だけ。期間を区切った我慢なら、うまくいく。
でも、毎日続く親子の我慢大会は、どこかで必ず切れる。切れた日、いちばん疲れているのは親のほうだ。
では、何が効くのか。69の研究・のべ約11万9千人をまとめた解析で見えてきたのは、もっと地味なものだった。親子の関係が温かいかどうかである(2)。
親子関係の「温かさ」と、ゲームのハマりやすさ
抽象的な愛情の話ではない。研究が測っていたのは、もっと日常的なことだ。
この分野でよく使われる尺度は、だいたい次のようなことを子ども自身に尋ねる。
| 研究で尋ねられている「関係の温かさ」 |
|---|
| 困ったとき、親に相談できると思えているか |
| 話しかけたときに、ちゃんと話が通じるか |
| 家の中で、ひとりだけ取り残されている感じがないか |
| ケンカをしても、次の日には元どおりに戻れるか |
つまり、特別なことは何ひとつない。 相談できる。話が通じる。ひとりにされない。
そして4つめが、案外見落とされる。ケンカがないことが「温かさ」ではない。ケンカのあとに、戻れることだ。
言い合いになる日があってもいい。翌朝、いつもの調子で「おはよう」と言えるなら、それで足りている。
興味深いのは、男の子と女の子で少し違いが出ていたことだ。男の子では親との会話のとり方が、女の子では家族から切り離されている感じが、より強く関係していた(2)。
ここは正直に付け足しておく。この関連の強さは、統計上は小さい部類だ。
「親子関係が温かければ、その子はゲームにのめり込まない」とまで言い切れる話ではない。 多くは同じ時期にまとめて調べた研究なので、関係が温かいからのめり込まないのか、のめり込んでいないから関係が穏やかなのか、順番も決められない。
それでも、力を注ぐ先はどちらかと言えば、はっきりしている。
時間の制限を厳しくするより、上の表の4つを増やすほうだ。 相談できる。話が通じる。ひとりにされない。ここを厚くしておくほうに、見込みがある。
わが家はまだ幼稚園。それでも、今のうちに決めていること
ゲームが始まる前の家こそ、いちばん楽に準備ができる。
正直に打ち明けると、私も夫も、ゲームにのめり込むタイプではない。子どももまだ幼稚園で、ゲームはしていない。
今の相手は、テレビと動画だ。
それでも、外来で見てきて確信していることがある。
ゲームでもめる家と、もめない家の差は、家庭の厳しさでも、子どもの性格でもない。「始める前に何を決めたか」だ。
そして、いま動画で試している決め方は、そのままゲームにも使える。だから、始まる前の今のうちに練習している。
上手にできなくていい。側で見て、同じところで笑う
一緒に楽しむのに、親がゲーム好きである必要はない。
上手にやってみせる必要はなく、側で見て、同じところで笑うだけでいい。
「それ、どうやるの?」
「今の、惜しかったね」
わが家でも、動画を観るときはできるだけ子どもの近くから一緒に観て楽しむ(忙しくても見守りながら一緒に楽しんでいる空気感にする)。そして終わるときは、こう言う。
「楽しかったね」「もっと観たいね」「もっとやりたいね」
この「もっとやりたいね」が、意外なほど効く。
名残惜しい気持ちを、親が同じ側で感じてくれている。すると終わりは、「取り上げられた」ではなく「一緒に閉じた」に変わる。
ちなみに、遊んだ時間の長さそのものは、心の健康をほとんど左右しないという大規模な研究もある(3)。ただしこれは大人のプレイヤーを調べたもので、子どもにそのまま当てはめることはできない。
それでも私は、こう考えている。大事なのは長さより、どんな気持ちで終われたかだ。
終わり方は、始める前の30秒で決まる
始まってから交渉すると、まず勝てない。決めるのは、スイッチを入れる前。
始まってしまえば、子どもの頭の中はゲームでいっぱいになる。そこで「終わったら何する?」と聞いても、上の空だ。
だから、始める前に30秒だけ。3つ聞く。
| 始める前に聞く3つ | 声かけの例 |
|---|---|
| ① どこまで? | 「どこまでやったら終わりにする?」 |
| ② 終わったら何する? | 「終わったら、公園行く?水遊びする?」 |
| ③ どこでやる? | 「リビングでやろうね」 |
コツは、時計ではなく区切りで終えること。
「6時まで」より「この面をクリアしたら」。時計は途中で鳴るが、区切りは子ども自身にも見えている。
そして真ん中の2つめが、いちばん大事だ。
終わりの向こう側に、楽しみが待っていること。
対象は大学生だが、使う前に計画を立てておくと使用時間が減ったという研究がある(4)。小学生でも中学生でも、このしくみは似ていると感じている。
そしてもうひとつ。この3つは、親が一方的に決めるのではなく、子どもに聞く形にするのがいい。 冒頭で書いたとおり、同じルールでも押しつけると裏目に出るからだ。
わが家で失敗する日は、いつも同じパターンだ。この30秒をうっかり忘れた日か、「ちょっとだけ観ようか」と思いつきで始めた日。
うまくいかない原因は、子どものわがままではなく、決めそびれた30秒にある。 そう思えると、こちらもそれほどイライラしない。
「何時間まで」より、ここだけ見ればいい
実は、「1日◯時間なら安全」と言い切れる根拠は、今のところない。
だから私は、時間の長さより先に、ここを見ている。
| 夏休みの見守りチェック(気になり始めたら要注意) |
|---|
| □ 起きる時間・寝る時間が、学校のある日と2時間以上ズレてきた |
| □ ごはんだよと呼んでも、画面から離れられない |
| □ 外遊び・友だち・家族との時間が、目に見えて減った |
| □ ゲーム以外の楽しみを、最近ひとつも口にしない |
| □ 目を細める、画面にどんどん近づいていく |
まず、いちばん上の睡眠から。
学齢期から思春期の子どもを対象にした67の研究をまとめた総説では、その9割で、画面の時間が睡眠と悪い方向に関わっていた(5)。中身は主に、睡眠時間が短くなることと、寝る時刻が後ろへずれることだ。
ただし、含まれる研究の多くは2014年より前のもので、スマホが今ほど広まる前の時代にあたる。
夏休みのように毎日ゲームに触れる時間がある時期は、就寝も起床も少しずつ後ろへずれていきやすい。気にしてほしいのは合計時間より、ずれ幅のほうだ。
そして、いちばん下は体のサインだ。目を細める、画面との距離が近づく。近視が進みはじめた合図のことがある。 気づいたら、眼科でも小児科でもいい、一度みてもらってほしい。
日本小児科医会は、近視の進行を抑えるために1日2時間以上の外遊びをすすめている(6)。夏は、いちばん実行しやすい季節だ。
当てはまり始めたら、時間を削る交渉より先に、起きる時間・ごはん・お風呂・外遊びを予定に入れてしまう。 予定が先に入れば、ゲームは自然とその隙間に収まる。
守れた日に、ひとこと言う
約束したら、あとは口を出さない。ここが親のいちばんの我慢どころだ。
「あと10分だよ」「そろそろでしょ」と横から何度も言うのは、見守りではなく監視になる。子どもから「自分で終われた」という手柄を奪ってしまう。
そして終われた日には、必ず言葉にする。
「今日、自分で終われたね」
「楽しかったよね。また今度やろうね」
自分で決めて、自分で守れた。 この小さな成功体験の積み重ねだけが、親の目が届かない年齢になっても効き続ける。
いっぽう、取り上げて手に入るのは、親が見ている間だけの静けさだ。
目が届かなくなれば、それも終わる。中学生になれば、隠れてやる方法はいくらでも見つかる。
長く効くのは、外から押さえる力ではない。その子自身の「そろそろやめよう」だ。
よくある質問(FAQ)
Q1. 結局、1日何時間までならいいのでしょうか?
「◯時間まで」と言い切れる確かな根拠は、実はありません。よく引かれるのは日本小児科医会の提言で、メディア全体で1日2時間まで、テレビゲームは1日30分までが目安とされています。
ただしこの数字は2004年のもので、スマホもYouTubeも広まっていない時代に作られました。
2024年に出した資料では、WHOの指針をもとに2歳未満は推奨しない、2〜4歳は1日1時間未満という、より幼い年代に絞った目安が示されています(6)。
つまり、学童期の「何時間まで」を決められる数字は、今も存在しません。 大切なのは、睡眠・ごはん・運動・現実の楽しみが削られていないこと。本文のチェック表が当てはまらないなら、心配しすぎなくて大丈夫です。
Q2. 約束を破ったら、取り上げるべきですか?
取り上げを繰り返すと、親は「奪う人」になってしまい、困ったときに相談してもらえなくなります。責めるより、「どこが守りにくかった?」と一緒に見直してみてください。区切りがあいまいだった、次の予定がなかった。原因はたいてい、決め方のほうにあります。
Q3. 「ゲーム依存」は、どこからですか?
WHOの国際的な基準(ICD-11)では「ゲーム行動症」として、①自分で止められない、②他のことより優先し続ける、③困ったことが起きてもやめられない、が原則1年以上続き、生活に明らかな支障が出ている場合とされています(7)。夏休みだけ時間が伸びるのとは、はっきり区別されます。学校が始まっても戻らない、昼夜が逆転したままの場合は、小児科や児童精神科にご相談ください。
おわりに|あなたへ
ゲームの中には、子どもの「好き」が詰まっている。
それを取り上げるかどうかで悩む夜は、あなたがそれだけ真剣に、わが子の未来を考えている証拠だ。
だったら、その真剣さの向け先を、少しだけ変えてみてほしい。
我慢を強いる方向ではなく、一緒に楽しむ方向へ。一緒に笑って、一緒に「またやろうね」と言って、一緒に画面を閉じる方向へ。
親が同じ側に立ってくれたことを、子どもは覚えている。ゲームの記憶と一緒に、ずっと。
心が変わると、すべてが変わる。——夏休みも、ゲームとの付き合いも、人生も。
参謀医Reimyより
📜 「夏休みの画面」シリーズ(全3回)
- ①ゲーム編(この記事)……自分から選んで遊ぶもの。「始め方」で決まる
- 【②動画・テレビ編】終わりのない画面に、区切りをつくる(後日公開予定)
- 【③SNS編】開いた窓のようで、実は「個室」(後日公開予定)
あわせて→ 夏休みの生活リズム崩壊|寝る時間より、起きる時間
免責事項
本記事は一般的な情報提供であり、診断・治療に代わるものではありません。お子さんの生活の乱れや心身の不調が長く続く場合は、小児科・児童精神科など医療機関にご相談ください。
参考文献
- Bradt L, Grosemans E, De Cock R, Dupont B, Vansteenkiste M, Soenens B. Does parents’ perceived style of setting limits to gaming matter? The interplay between profiles of parental mediation and BIS/BAS sensitivity in problematic gaming and online gambling. Journal of Adolescence. 2024;96(3):580-597. doi:10.1002/jad.12271
- You S, Wang X, Hu Z, He J, et al. Parent‒child Relationships and Gaming Addiction: A Systematic Review and Meta-analysis. Journal of Youth and Adolescence. 2025;54(11):2713-2729. doi:10.1007/s10964-025-02263-z
- Vuorre M, Johannes N, Magnusson K, Przybylski AK. Time spent playing video games is unlikely to impact well-being. Royal Society Open Science. 2022;9(7):220411. doi:10.1098/rsos.220411
- Brockmeier C, Keller J, Dingler T, Paduszynska N, Luszczynska A, Radtke T. Planning a digital detox: Findings from a randomized controlled trial to reduce smartphone usage time. Computers in Human Behavior. 2025;168:108624. doi:10.1016/j.chb.2025.108624
- Hale L, Guan S. Screen time and sleep among school-aged children and adolescents: a systematic literature review. Sleep Medicine Reviews. 2015;21:50-58. doi:10.1016/j.smrv.2014.07.007
参考資料
- 公益社団法人日本小児科医会「子どもとメディア」対策委員会. 「子どもとメディア」の問題に対する提言. 2004年/公益社団法人日本小児科医会 子どもとメディア委員会. リーフレット「デジタル社会の子育て」. 2024年.
- World Health Organization. ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics — 6C51 Gaming disorder. 2024.


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