あくびは、うつる。——繊細なあなたへの処方箋|参謀医Reimy

メンタル

あくびがうつるのは「共感」のサイン

あくびは、うつる。
それは、ただ眠いからじゃない。
人はときどき、感情まで受け取ってしまう。

あなたが、ある日ふと聞いてきた。
「ねえ、人って一生に何回あくびするの?」

……なかなかの質問だと思った。
私は少し考えてから、答えを探した。

答えは、一生で約20万〜30万回。

1日5〜10回。80年生きれば約3万日だから、だいたいそのくらいになる。

「多いね、よくわかんないなー」と言って、あなたはすぐに別のことを考え始めた。
子どもというのは、答えを得たら次へ行く。清々しいほどに。

でも私は、その数字をしばらく手の中で転がしていた。

 

あくびには、面白い性質がある。
うつる。

隣の人があくびをすると、自分もしたくなる。気づいたら口が開いていた、あの感じ。

これは「だらしない」でも「眠い」でもない。

研究によれば、他者のあくびがうつりやすい人は、共感性が高い傾向があると言われている。
あくびを見たとき、脳のなかで「相手の状態を自分のことのように感じる」回路が動く。ミラーニューロン、と呼ばれる仕組みが、その一端を担っている。

つまりあくびがうつるとき、あなたの体はすでに、その人とつながっている。


HSPとは? 繊細な人が疲れやすい理由

そしてここで、あなたに伝えたいことがある。

あくびがうつりやすい人がいるように、感情がうつりやすい人がいる。

それを、HSP(Highly Sensitive Person)と呼ぶ。日本語にすると、「とても敏感な人」。繊細さん、とも言われる。

HSPは病気ではない。「刺激や感情を深く受け取りやすい気質」のことだ。

アメリカの心理学者、エレイン・アーロンが提唱した概念で、人口の約15〜20%に見られると言われている。5人に1人。決して珍しくない。

HSPの特徴は、
「深く考える」「刺激に疲れやすい」「感情を強く受け取る」「小さな変化によく気づく」こと。

鋭く、深く、よく気づく。

それが、HSPという気質の正体だ。

(心理学では、この4つの特徴を Depth・Overstimulation・Emotional reactivity・Sensitivity の頭文字でDOESと呼ぶ。)。

HSPは、壊れやすい人ではない。
危険を早く察知し、群れを守るために育まれてきた感受性なのかもしれない。
自然界ではむしろ、“生き延びる力”として働いていたように、私には思える。

HSPでない人でも、似たような反応を経験することがある。

たとえば、赤ちゃんがうつ伏せになっていないか心配で、小さな物音に過剰に反応したり、パッと駆け寄ったりした経験はないだろうか。

私もあなたたちを育てている中で、下の子の物音にとても敏感になっていた時期がある。
そんな時、上の子に突然「バア!」と驚かされて、本気で心臓がひっくり返りそうになった。

大切なものを守ろうとするとき、人の感覚は自然と鋭くなる。

HSPの感受性も、その延長線上にあるのかもしれない。


HSPの人は「人の感情」を受け取りすぎる

でも、鋭いということは、刃のように——使いすぎると、自分を傷つける。

人混み。大きな音。機嫌の悪い人。SNS。マルチタスク。睡眠不足。

HSPの人は、これらで思っている以上に脳が消耗する。

「なんでこんなに疲れるんだろう」
「人といるだけで疲れる」
「空気を読みすぎてしまう」
「人の機嫌に影響される」

そんなふうに、自分を責めてしまう人も多い。

でも、それは怠けではない。情報処理量が、ただ多いだけ。

そう捉え直すだけで、かなり楽になる。

 

私が臨床で感じてきたことがある。

HSPの人は、「人の痛みに敏感」なぶん、自分の限界には鈍感なことが多い。

誰かが苦しそうにしていると、自分のことのように感じてしまう。誰かの怒りが空気に満ちると、自分まで萎縮してしまう。誰かの悲しみが、夜になっても心に残っている。

受け取る力が強いぶん、しんどさの出所が「自分なのか、もらったものなのか」が、わからなくなる。

実は、ここまで書いてきた私自身も、かなり影響を受けやすい。

レストランで、苛立ちながら店員さんに注文している人がいると、胸のあたりが、うっと重くなる。

大きなくしゃみや、突然の衝撃音に、必要以上にビクッとしてしまうこともある。

精神科医としては、むしろ必要な感受性なのかもしれない。

でも、日常では、ときどき生きづらさにもなる。

それでも、昔よりは、それを引きずりにくくなった。

嫌な気配を受け取っても、「これは自分のものじゃない」と、そっと心の中で境界線を引くようにしている。

どうやっているのか。
その話を、次に書こうと思う。


繊細な人が楽になるための処方箋

今まさにしんどい時——「今ここ」に戻る

まず大切なのは、「今、自分は何をしているか」に意識を戻すこと。

つまり、まさに今、その場で「ううっ……」となっている時だ。

誰かの怒り。強い空気。圧のある言葉。
そういうものに飲み込まれそうになった時ほど、一度だけ、“今ここ”へ戻ってみる。

足の感覚。呼吸。手の温度。
目の前のコップ。歩いている感覚。

考えすぎている時、人の脳は「今」ではなく「相手の感情」の中に入り込んでいる。

これはマインドフルネスと呼ばれる考え方で、今この瞬間に意識を向け直すことで、入り込みすぎた刺激や感情から少し距離をとる助けになることがある。

「これは自分の感情なのか?」と、一度立ち止まるだけでも違う。

冷たい水で手を洗う。深呼吸をする。白湯を飲む。

身体感覚に戻るだけでも、感情の渦から少し抜けやすくなる。


もらいすぎないために——環境を選ぶ

そしてもうひとつは、嫌な気配を“もらいすぎない”こと。

つまり、予防だ。

HSPの人にとって、「誰といるか」「どこにいるか」は、想像以上に大きい。

安心できる人といると回復しやすく、緊張が強い環境では消耗しやすい。

否定が多い人。空気がピリつく場。感情の起伏が激しい相手。
そういう環境に長くいると、HSPの人はかなり削られる。

逆に、安心できる人、話を遮らない人、穏やかな空間では、驚くほど回復する。

環境は、根性でどうにかするものではない。選ぶものだ。

また、物理的な刺激を減らすことも助けになる。

イヤホンや耳栓を使う。
ノイズキャンセリングイヤホンなどおすすめだ。
光がつらい時はサングラスをかける。
部屋を整えて視覚的な情報を減らす。

こうした小さな工夫だけでも、脳の疲労はかなり変わる。

SNSやニュースから距離を置くことも大切だ。

HSPの人は、人の感情だけでなく“情報の空気”まで受け取ってしまう。

刺激に触れ続けないことも、自分を守る方法のひとつだ。

予定を詰め込みすぎないことも大切だ。

HSPの人は「やることの多さ」より「切り替えの多さ」で疲弊する。

人に会う。移動する。返信する。判断する。空気を読む。

脳はずっと情報処理を続けている。

だから、予定と予定の間に「何もしない時間」を入れておくだけでも違う。


回復する——ひとり時間は必需品

そして最後は、きちんと回復すること。

HSPの人にとって、ひとり時間は贅沢ではない。神経を休ませるための必需品だ。

静かな散歩。音楽。読書。湯船。何もしない時間。

誰とも話さず、頭を空っぽにする時間を意識して作る。

これはサボりではない。神経の充電だ。

充電なしに動き続けるスマートフォンがないように、繊細な神経を持つ人に休息なしの連続稼働はない。

考えすぎてしまう時は、紙に書き出すのもいい。

自分が何に傷つきやすいのか。どんな環境で疲れやすいのか。

自分の取扱説明書を作るように、自分を理解していく。

それはつまり、自分を守る技術だ。

HSPの人は人に優しい。
でもその優しさを、自分に向けるのは苦手だったりする。

だからこそ、「疲れている」と気づいた時点で休んでいい。

限界まで頑張ってから休むのではなく、「少し疲れた」で止まることも大切だ。


HSPは病気ではない。生まれ持った気質だ。

ただ、日常生活がかなりつらい場合には、不安や抑うつが重なっていることもある。

その時は一人で抱え込まず、病院やクリニックを頼っていい。

それも、自分を守る力のひとつなのだから。

優しさを、自分にも向けてほしい

あくびがうつるとき、人は何も考えていない。ただ、相手を受け取っている。

HSPの人は、それを24時間やっている。疲れて当然だ。

でも、その感受性は——誰かの小さな変化に気づける力だ。言葉にならない苦しさを、そっと受け取れる力だ。この世界を、人より少し深く感じられる力だ。

それは、弱さに見えることもあるかもしれない。

ただ、自分のことも、同じくらい丁寧に扱ってほしい。

あなたもその優しさを、受け取っていい。

 

参謀医Reimyより

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