この記事でわかること
- しんどい日のやる気の出し方と「自分の甘やかし方」
- セロトニンとは何か、精神科医がやさしく解説
- セロトニン不足とうつ病・治療薬(SSRI)について
- 精神科医が最も注意する「セロトニン症候群」とは
元気なはずなのに、なんか身体が重い。 風邪をひいたのか。鼻が詰まっているからか。目の奥がだるくて重い。 やる気が…あるような、ないような。
あなたも、そういう経験があるだろうか。
不思議なことに、そんな時期を過ぎると「あんなにしんどかったっけ」と、きれいさっぱり忘れてしまう。
のどもと過ぎれば熱さ忘れる、とは、よく言ったものだ。
しんどい日のやる気の出し方|しんどい日は自分を甘やかしていい
しんどい日に「やる気を出す方法」なんて、本来は必要ないのかもしれない。 風邪をひいていたり、徹夜明けだったり、レディなら生理前のこともある。 ウイルスを消したり疲労を無かったことにしたり、ホルモンバランスをすぐに整えるのは難しい。
休みなさい、と言いたいところではあるが。 それでも、寝ていても気が休まらない日というのがある。
そういう時に私がやることは、単純だ。
好きなものを食べる。 好きな動画を見る。 家事を休む。 そう。つまり、普段より、自分を甘やかす時間を多くする。
「役に立つことをしなければ」という気持ちを、一時的に棚の上に置いてしまう。
棚に置いたものは、元気になってから取り戻せばいい。
しんどい時に自分を甘やかすのは、怠けではない。 しんどい体を、ちゃんと正直に扱ってあげることだ。
じつは、自分を責める人より、自分にやさしくできる人(心理学でいう「セルフコンパッション」が高い人)のほうが、抑うつや不安が軽い傾向にある。 これは、たくさんの研究をまとめたメタ解析でも示されていることだ(1)。
セロトニンとは何か?精神科医がわかりやすく解説
少し、精神科医の顔で書かせてほしい。
「やる気が出ない」「気分が沈む」という時に深く関わっているのが、セロトニンという物質だ。
脳の神経と神経のあいだを行き来する、「神経伝達物質」のひとつである。
幸せホルモンと呼ばれることも多いけれど、私はこんな表現が好きだ。
気分や睡眠を、そっと整えてくれる縁の下の力持ち。 「なんとかなるかな」と思える小さな燃料を、毎日静かに補給してくれている、そういう存在。
不安を和らげ、気分を安定させ、睡眠や食欲、体のリズムを整えてくれる。
主に小腸と脳に存在していて、体全体に影響を及ぼしている。 少し詳しく言うと、セロトニンは腸でも脳でも作られている。腸で作られたセロトニンは脳には届かないが、脳で作られるセロトニンの材料になるトリプトファンは脳へ運ばれる。
セロトニンを増やすために有効とされるのは、次のようなことだ。 テレビや雑誌でもよく紹介されているから、知っている人も多いと思う。
・日光を浴びる(窓の近くにいるだけでもいい)
・リズム運動(歩く・噛む・深呼吸など、軽い運動でいい)
・トリプトファンを含む食事(バナナ・乳製品・大豆製品など)
・人とのふれあい(会話、ぬくもり)
「なんとなく良さそう」で終わらせたくないので、少しだけ根拠も添えておく。
日光をたくさん浴びた日ほど、脳のなかでセロトニンがよく作られることがわかっている(2)。歩くなどの軽い運動には、うつの気分をやわらげる効果がある(3)。セロトニンの材料はトリプトファンという栄養素で、食事からの摂取量が脳でのセロトニン合成を左右することがわかっている(4)。そして人とのふれあいとセロトニンは、互いに影響し合う関係にあると考えられている(5)。
風邪で外に出られない日でも、カーテンを開けて窓の近くで光を浴びるだけで、少し違う。
好きなものを食べることも、実はセロトニンの材料を補う行為と重なっている。
甘やかしは、ちゃんと理にかなっているのだ。
セロトニン不足とうつ病の関係
「セロトニンが足りないからうつ病になる」。 そう説明されることが、これまでとても多かった。
ただ、ここは精神科医として正直に書いておきたい。 近年の大規模な研究のレビューでは、「セロトニンの低下そのものがうつ病の直接の原因」という単純な図式は、実は明確には支持されていない(6)。
うつ病は、ストレス・睡眠・体質・環境・身体の病気など、さまざまな要因が重なって起こる、もっと複雑なものだ。 それでも、セロトニンが気分や睡眠の調整に関わっていること、そしてセロトニンに働きかける薬が一部の人に確かに役立つことは、臨床の現場で実感している事実でもある。
つまり、「セロトニンを増やせば必ず治る」のでも、「セロトニンは関係ない」のでもない。 その“あいだ”を、ていねいに見ていくのが治療だ。
だから、「これって甘えかな」と思う前に、一度立ち止まってほしい。
うつ病の治療薬として使われる SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬) は、脳内のセロトニンが長くはたらけるように助ける薬だ。他にも、うつ病の薬はあるがまた今度お話しよう。 SSRIは、セロトニンの再取り込みに特化した薬で、うつ病や不安障害に効果がある。パニック障害や強迫性障害にも使われる。
「じゃあ、たくさん飲めばたくさん元気になるのでは?」
そう思う人がいても、不思議ではない。でも、それは違う。
セロトニンは「多ければ多いほどいい」ものではない。 適切な量で、適切に働いてはじめて助けになる。むしろセロトニンが過剰になると、命に関わる「セロトニン症候群」を起こすことがある(7)。
薬は、量を守ることそのものが治療だ。
「効かない気がする」「もっと飲んだら楽になるかも」と思った時は、自己判断で量を変えず、必ず主治医に相談してほしい。
精神科医が最も注意する「セロトニン症候群」とは
「セロトニン」と聞くと、一般の方は「幸せホルモン」を思い浮かべるかもしれない。
でも精神科医の私が真っ先に思い浮かべるのは、セロトニン症候群だ。
名前だけ聞くと、幸せいっぱいハイテンションになってしまう病!?のように聞こえるかもしれないけれど、全然違う。 これは医療的な緊急状態になりえる、非常に怖い状態だ(7)。
セロトニンを増やす薬を複数使ったり、量が多くなりすぎると、セロトニンが過剰になることがある。 その時に起きるのが、セロトニン症候群だ。 一言でいうと、セロトニンが暴走してオーバーヒートしている状態。
「幸せ」とは程遠い、真逆の状態。
主な症状は、体の震え(振戦)、発熱、筋肉のピクつき(ミオクローヌス)、反射が過剰に強くなる(腱反射亢進)、興奮、混乱。 最悪の場合は、意識障害に至ることもある。
多くは、原因となる薬を始めたり増やしたりしてから、数時間以内に現れるのが特徴だ(7)。
だから精神科医は、薬を出す時に「今ほかに飲んでいる薬はありますか」と必ず確認する。
⚠️ 市販の風邪薬や咳止め(デキストロメトルファンなど)、一部の鎮痛薬にも、セロトニンに影響する成分が入っていることがある(7)。薬を複数使う時は、必ず医師か薬剤師に相談してほしい。
これは、あなたへの処方箋として、大切に届けておきたい言葉だ。
まとめ|しんどい日の、正直な過ごし方
セロトニンの話を少し難しく書いてしまったけれど、結論はシンプルだ。
しんどい日は、自分に正直でいい。
しんどい日を、自分をいたわる。ご褒美DAYに変えてしまおう。
好きなものを食べて、好きな動画を見て、窓から光を少しだけ受け取る。
それが今日の、あなたへの処方箋だ。
のどもと過ぎれば忘れるのが人間だけれど、 しんどい今のあなたを、私はちゃんと知っている。
ゆっくり、良くなればいい。 自分を甘やかせていい。
参謀医Reimyより
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医師による診断・治療に代わるものではありません。症状が続くときや服薬中の方は、自己判断せず、主治医や薬剤師にご相談ください。
参考文献
(1) Muris P, Petrocchi N. Protection or vulnerability? A meta-analysis of the relations between the positive and negative components of self-compassion and psychopathology. Clinical Psychology & Psychotherapy. 2017;24(2):373–383. doi:10.1002/cpp.2005
(2) Lambert GW, Reid C, Kaye DM, Jennings GL, Esler MD. Effect of sunlight and season on serotonin turnover in the brain. The Lancet. 2002;360(9348):1840–1842. doi:10.1016/S0140-6736(02)11737-5
(3) Noetel M, Sanders T, Gallardo-Gómez D, et al. Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2024;384:e075847. doi:10.1136/bmj-2023-075847
(4) Tang J, Krushelnycky L, Shaqo A, Cho CE. A comprehensive review of nutritional influences on the serotonergic system. Advances in Nutrition. 2025;16(11):100524. doi:10.1016/j.advnut.2025.100524
(5) Kiser D, Steemers B, Branchi I, Homberg JR. The reciprocal interaction between serotonin and social behaviour. Neuroscience & Biobehavioral Reviews. 2012;36(2):786–798. doi:10.1016/j.neubiorev.2011.12.009
(6) Moncrieff J, Cooper RE, Stockmann T, Amendola S, Hengartner MP, Horowitz MA. The serotonin theory of depression: a systematic umbrella review of the evidence. Molecular Psychiatry. 2023;28(8):3243–3256. doi:10.1038/s41380-022-01661-0
(7) Boyer EW, Shannon M. The serotonin syndrome. New England Journal of Medicine. 2005;352(11):1112–1120. doi:10.1056/NEJMra041867
📜 連休明けにしんどい五月病については、こちらの手紙で。


