あなたに聞いてもいい?
最近、何かが怖くて、心が落ち着かないことはある?
「うまくいかなかったらどうしよう」
「あの人、私のこと嫌いなのかな」
「将来、どうなるんだろう」
頭の中で、ぐるぐると不安が止まらない。
そんな時、自分を「弱い」なんて思わないでほしい。
そして正直に言う。精神科医の私だって、不安を感じる。毎日。
精神科医でも、不安になる
「精神科医なんだから、不安にならないでしょ」と思うかもしれない。
全然そんなことはない。
攻撃的な状態の患者さんを前に、暴力を振るわれないかと正直怖いと感じることがある。ブログを書いているけれど、ちゃんと伝わっているかなと不安になる。友人を誘ったものの、忙しそうな様子を見て、誘って良かったのかなと気になる。
子育てでも、習い事にあまり行かせていないけれどこのままでいいかなと思ったり。少し調子悪そうだったけれど熱もなく学校に行かせた後、大丈夫かなとずっと気になったり。
妊娠中はお腹の赤ちゃんがちゃんと育っているか、自分の体力が持つかも不安だった。今も成長に遅れはないか、ミルクの量はこれでいいのか、離乳食のスピードが遅めかなと気になる。
大きな地震が来ないか不安になることもある。火災報知器の誤作動でドキッとするし、実際に近くで火災があった時は、しばらく心がざわついた。
外来では、調子が悪そうな患者さんが「来週まで大丈夫です」と言う時、本当に来週まで乗り切れるかなと心配になる。入院するかしないかの判断で、本人が入院を望まない時、その後が頭から離れないこともある。
これは不安というより心配に近いかもしれないけれど、根っこは同じだ。
精神科医でも、経営者でも、どの職業でも、そして親でも、独身でも、人間は不安を感じる生き物だ。それは弱さではない。
心が落ち着かない、ぐるぐる止まらない。その不安は「敵」ではない
不安は、あなたの敵じゃない。
不安は、脳が「危険かもしれない」と察知したときに出る、アラームのようなもの。人間が長い時間をかけて厳しい自然界を生き延びてこられたのは、このアラームがあったから。つまり、不安を感じて落ち着かなくなることは、生きる力がある証拠。正常で、賢いことなんだ。
縄文時代の人間が、外に出るたびに「猛獣に襲われないかな」と不安を感じていなかったら、今の私たちは存在していない。不安は、生存のための本能だ。
だからまず、自分の不安を責めないでほしい。
不安は脳が鳴らす「防衛アラーム」。でも誤作動が苦しい
でも、アラームが鳴り続けると苦しいよね。
問題は、そのアラームが「誤作動」しているとき。
友人との関係、売上の問題、明日の試験、将来のこと——それは、今すぐ命に関わることじゃない。なのに、体は「緊急事態だ」と反応してしまう。
心臓がドキドキして、手に汗をかいて、どうしても落ち着かない。
これは脳の扁桃体という部位が過剰に反応している状態だ。精神科医として補足すると、不安が強い人は扁桃体の感受性が高く、些細なことでもアラームが鳴りやすい。これは性格の弱さではなく、脳の特性だ。
「不安メガネ」に気をつけて
不安を抱えたままでいると、「不安メガネ」で物事を見るようになる。
たとえば、病院や美容院を選ぶとき、口コミを見て、多くの良い口コミがある中でたった一つの悪い口コミに目が止まる。その瞬間から小さな不安が芽生え、次第に大きくなっていく。
実際に評価が悪い口コミが気になる婦人科を受診した時のことを思い出す。悪いことしか目につかないし、ちょっとでも気になることがあると「やっぱり不安が的中した」と思ってしまう。
これが「不安メガネ」の怖いところだ。
不安を抱えたまま情報を見ると、不安を確認する情報だけを集めてしまう。心理学では「確証バイアス」と呼ばれる現象だ。不安→不安を裏付ける情報を探す→さらに不安になる、というループにはまってしまう。
だからこそ、不安が強いときほど、情報を集めすぎないことが大切だ。
知識より、「誰かとの対話」が不安を和らげる
精神科医として医学の知識は持っている。でも気づいたことがある。
知識よりも、他の人の経験や対話を通じて得られる安心感の方が大きい、ということ。
どんなに知識が豊富でも、たった一人との会話で、その人の経験談を聞く方が不安が薄れることがある。「私も同じだったよ」「あの時こうしたら楽になった」——そういう一言が、どんな専門知識より心を軽くすることがある。
精神科医として、これは臨床でも同じことが起きていると感じる。支持的傾聴や共感が、薬と同じくらい、時には薬以上に患者さんの心を安定させることがある。人は「わかってもらえた」と感じるだけで、不安が和らぐ。
一人で不安を抱えているあなたへ。誰かに話してみてほしい。解決策なんていらない。ただ聞いてもらうだけでいい。
「この不安は何を守ろうとしている?」ソワソワの奥にあるあなたの本音
不安が出てきて、心がザワザワして落ち着かないとき。
自分に一つだけ聞いてみて。
「この不安は、何を守ろうとしているの?」
「発表が怖い」→ 恥をかきたくない → ちゃんと見せたい自分がいる
「嫌われたくない」→ 大切な関係を失いたくない → その人が本当に大事
「子育てがこれでいいかわからない」→ 子供を幸せにしたい → 深い愛がある
不安の奥には、必ずあなたが大切にしているものがある。
だから不安は、決して悪者じゃない。
あなたの「大切なもの」を教えてくれる、地図みたいなもの。
不安を感じるたびに、「私は何を守りたいんだろう」と自分に問いかけてみよう。その答えが見つかると、不安の輪郭がはっきりして、少し楽になる。
一人でアラームを直そうとしなくていい
それでも、どうしても苦しいとき。
落ち着かない気持ちが続いて、食べられない、毎日がしんどい。
そのときは、一人で抱えないでほしい。
あなたは弱いんじゃない。
アラームが壊れているときに、一人で修理しようとしなくていい。
誰かに頼っていい。
家族や友人に話すだけでもいい。
もし身近に頼る人がいないなら、クリニックや病院に相談してみよう。
不安が強い時の、私の対処法
不安が強くなった時、私が実践していることを正直に教えよう。
①早く寝る。睡眠をしっかり取る。
不安が強い夜こそ、早く寝ることを優先する。睡眠不足は扁桃体の感受性を高め、不安をさらに増幅させる。精神科医として断言できる。疲れた脳は、些細なことを「緊急事態」と判断しやすい。眠れないから不安、ではなく、不安だからこそ眠ることが最優先だ。
②水を使う作業の時にマインドフルネスを意識する。
以前この手紙でも紹介したけれど、食器を洗う時、顔を洗う時、手を洗う時——水が流れるその瞬間に、不安も一緒に流れていくイメージを持つ。特別な時間を作らなくていい。毎日の習慣の中に組み込める、一番続けやすいマインドフルネスだ。
③不安を紙に書き出す。理由と解決策を矢印でつなぐ。
これが一番効果的だと感じている方法だ。
頭の中でぐるぐるしている不安は、書き出した瞬間に輪郭がはっきりする。そしてこう書いてみてほしい。
「不安なこと」→「理由」→「解決策」
実際の例を挙げよう。
・不安なこと:試験 → 理由:まだ繰り返しできていないページが残っている → 解決策:明日の朝ざっと確認しよう
・不安なこと:売り上げが伸びない → 理由:仕入れ先や価格の見直しができていない → 解決策:○日までに一旦見直そう
・不安なこと:危険行為をする患者さんが来る → 理由:安全対策が不十分 → 解決策:対策を確認し、必要ならスタッフと一緒に診察しよう
・不安なこと:学習できていない → 理由:時間が取れていない → 解決策:朝の5分でもできるように、簡単なワーク1枚と筆記用具だけ机に置いておこう
・不安なこと:部屋が片付かない → 理由:時間がない → 解決策:毎日一箇所だけきれいにすると決める。100%ゴミ(賞味期限切れ・不要なレシート)は見つけ次第すぐ捨てる
書いてみると気づく。不安の多くは、「正体不明の恐怖」ではなく、「解決策が見えていないだけ」だということが多い。矢印でつないだ瞬間、不安はタスクに変わる。タスクになれば、動ける。動けば、不安は小さくなる。
夜に書き出すと良いと言われていたりもするが、夜でも日中でも、できる時にやってみよう。
夜にもし不安が強くなったら、見返せばいいし、追記したっていい。
ざっと書いてみる、ということが大切だ。
不安と戦わなくていい。ただ、少し距離を置いてみて
不安を消そうとしなくていい。
不安と戦わなくていい。
ただ、「あ、またアラームが鳴ってる。私が何かを大切にしてる証拠だな」と、少しだけ距離を置いて見てみて。
不安は、あなたを苦しめるために来ているんじゃない。
あなたを守ろうとして、鳴っている。
精神科医の私が、今日もそうやって自分の不安と付き合っているように。あなたも、不安を抱えながらでも、十分に生きていける。
参謀医Reimy

