「ママ、それ、ちくちく言葉だよ」
ある夜、夫への言い方が、つい少しきつくなった私に、子どもがそう言った。絵本で覚えた「ふわふわ言葉」と「ちくちく言葉」。あの子はその違いを知っていて、私の言葉を、ちゃんと聞いていたのだ。
完璧な親では、いられない。その夜も私は、子どもの寝顔に「ごめんね」とつぶやいた。子どもの前で夫婦喧嘩をしてしまった——そんな夜に、覚えはないだろうか。
でも、先に伝えておきたい。大切なのは「ケンカを見せたかどうか」ではなく、「そのあと、どうするか」だ。最新の研究も、そう教えてくれている。「もう手遅れ」は、誤解なのだ。(1)(2)(3)
とくに、こんな思いに覚えがあるなら、この記事はあなたのためのものだ。
- 子どもの前で夫婦喧嘩(言い合い)をして、自分を責めているママ・パパ
- イライラした自分の口調を、子どもが真似していてハッとした
- 「もう手遅れかも」と、寝顔を見ながら後悔したことがある
精神科の知識をフルに使っても、なお奮闘している二児の母として書いていく。寝かしつけのあとでも、家事の合間でもいい。少しだけ肩の力を抜いて、最後まで読んでみてほしい。
子どもは、見ている——親の口調を、そっくり真似て
正直な告白から始めたい。
子どもは、親のふるまいを、とりわけ私の言葉づかいを、しっかり見ている。
ある日、夫の靴下が脱ぎっぱなしになっていると、子どもがこう言った。「パパ、靴下脱ぎっぱなしよ!」。その口調が、私にそっくりで、ドキッとした。普段の私の言い方を、そのまま真似ていたのだ。
子どもの前では言い方に気をつけているつもりでも、ふとした拍子に乱暴な言葉が出て、子どもが耳を塞いだことがある。
そして冒頭の、「ママ、それ、ちくちく言葉だよ」。子どもはもう“言葉には種類がある”ことを知っていて、私の言い方を、ちゃんと“測って”いた。刺さると同時に、誇らしくもあり、でも、胸がぎゅっとなった。
なぜ子どもは、親の言葉を真似るのか
これは、心理学でとても有名な現象だ。人は、まわりの人の言葉や態度、感情の出し方を「見て、まねること」で学んでいく。叱られたり、ほめられたりしなくても、ただ見ているだけで、自然に吸収してしまう。そして子どもにとって、いちばん身近で強力なお手本は、ほかでもない親だ。
古くは半世紀以上前の研究で、大人が人形に乱暴にふるまうのを見た子どもは、自分も同じように乱暴にふるまう傾向が、はっきり高くなることが示された(4)。そして近年でも、親の“対立の対処の仕方”そのものが、世代を超えて子どもへ受け継がれていくことが、最新の追跡研究で確かめられている(5)。子どもは、良いことも、そうでないことも、私たちのふるまいから、まるごと学んでいく。
「パパ靴下脱ぎっぱなしよ!」は、まさにこれ。私の言い方が、そのまま子どもの“お手本”になっていたわけだ。
……ここまで読むと、ますます落ち込んでしまうかもしれない。「やっぱり、子どもの前でイライラしちゃダメなんだ」と。
でも、ここからが、この記事でいちばん伝えたいことだ。
大切なのは「ケンカゼロ」ではなく「仲直りを見せる」こと
夫婦のぶつかり合いが子どもに与える影響は、世界中で何十年も研究されてきた。その積み重ねが教えてくれる、いちばん大切な一点が、これだ。
子どもの心を左右するのは、「夫婦がぶつかったかどうか」ではなく、「そのあと、どうなったか」である。
たしかに、激しい言い争いが何度も繰り返される家庭では、子どもはケンカに過敏になり、ちょっとした言い合いにも強く動揺してしまう(1)(2)。これは、できれば避けたい。
ところが、ちゃんと歩み寄って、仲直りまで見えるケンカは、まるで話が違う。
研究で繰り返し示されているのは、「解決される対立(建設的な対立)」は、子どもの心の安定をおびやかしにくいということだ(2)(3)。
怒鳴り合ったまま終わる対立は、子どもを不安にさせる。一方で、歩み寄りや仲直りが見える対立は、子どもに「うちは、ぶつかっても、ちゃんと元に戻れる家だ」という安心感(情緒的安定性)を残す。むしろ、人との向き合い方を学ぶ機会にもなり得る。
“見て学ぶ”という話も、これを裏づける。親が落ち着いて仲直りする姿を見た子どもは、そのやりとりを丸暗記するわけではない。「意見が違ったとき、人はどうやって折り合いをつけるのか」という、生きていくうえで何より大切なことそのものを、受け取っていく(2)。
つまり、「子どもの前でイライラしてしまった」過去は、取り返しのつかない傷ではない。むしろ、「ぶつかったあと、どう仲直りするか」を見せることが、子どもにとって最高の“お手本”になり得る。
寝顔に「ごめんね」と言った夜は、もう“やり直し”が始まっている
イライラをぶつけてしまった夜。子どもの寝顔を見ると、いつも胸がいっぱいになる。
すやすや眠る、無防備な顔。幸せだなあ、と心から思う。それと同時に、「今日はごめんね」と、そっと謝る。
長いあいだ、私はこの「ごめんね」を、自分の弱さの証拠のように感じていた。でも、今は違う。
寝顔に「ごめんね」と思えること——それは、自分の言動を振り返り、明日は仲直りしようとしている証拠だ。本当に問題なのは、振り返りすらしないこと。寝顔に謝れるあなたは、もう、やり直しを始めている。
完璧な親でいることよりも、いったん壊れた関係を、もう一度つなぎ直す姿を見せること。そのほうが、子どもにとっては、ずっと価値がある。私はこの考え方に、何度も救われてきた。
今日からできる|“仲直り”を見せる3つの戦略
最後に、かつての私のように悩むあなたへ、精神科医として実践している3つの戦略を伝えたい。
① ケンカのあと、子どもの前で“仲直り”まで見せる
これがいちばん大切だ。もし子どもの前で言い合いになってしまったら、できる範囲でいい、「仲直りする場面」も見せてあげてほしい。「さっきは強く言いすぎたね、ごめんね」「ママもイライラしてたの。仲直りしよう」。この一言が、子どもにとって「人は、ぶつかっても、また仲直りできる」という、何より大切な学びになる。ちくちく言葉を使ってしまった日こそ、最後に“ふわふわ言葉”で締めくくる姿を見せたい。
② 「子どもの前でゼロ」を目標にしない
「絶対に見せない」を目標にすると、隠そうとして空気がピリピリし、かえって子どもは不安になる。大事なのは、ぶつからないことではなく、ぶつかっても元に戻れると見せること。完璧な親を演じるより、仲直りできる親であるほうが、子どもは安心する。
③ ムカッとしたら、その気持ちに“名前”をつける
夫に、無性に腹が立つ。あるだろう。私にも、ある。怒りは自然な感情で、抑え込む必要はない。大切なのは、その怒りの「出し方」だ。
おすすめは、こみ上げた感情に“名前”をつけて、言葉にすることだ。胸がムカムカしたら、心の中で、あるいは声に出して「あ、今わたしは“イライラ”しているな」と名づけてみる。たったこれだけで、怒りの勢いがすっと和らぐ。これは、感情を言葉にすると気持ちが落ち着く、という脳のはたらきを使った方法だ。
そして子どもの前では、夫を責める代わりに、「ママ、今ちょっとイライラしてる。少し休むね」と、自分の気持ちだけを伝えて、その場を離れる。怒りをぶつけるのではなく“名前をつけて伝えて、いったん離れる”——この姿は、そのまま、子どもにとって最高の「気持ちとのつき合い方」のお手本になる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 子どもの前で夫婦喧嘩をしてしまいました。もう手遅れですか?
手遅れではありません。子どもの心を左右するのは「ケンカを見せたかどうか」より「そのあと、仲直りを見せられるか」です(2)(3)。今日からでも、仲直りする姿を見せれば、それは子どもにとって大切な学びになります。
Q2. 子どもが、私の怒った口調を真似します。やめさせるには?
叱ってやめさせるより、あなた自身が「ふわふわ言葉」を使う場面を増やすのが近道です。子どもは、注意された言葉より、親が実際に使っている言葉を吸収します。「ありがとう」「ごめんね」を親同士が交わす姿が、何よりのお手本になります。
Q3. 夫婦喧嘩のあと、子どもが元気がありません。どうすれば?
まず、子どもに「あなたのせいじゃないよ」「ママとパパは仲直りしたよ」と、はっきり言葉で伝えてあげてください。子どもは、ケンカの原因を自分のせいだと感じやすいものです。落ち込みや不安が長く続く、眠れない・食べられないなどが見られる場合は、かかりつけ医や専門機関への相談も考えてください。
おわりに|親子は共に成長していく
完璧な親でいられる人なんて、どこにもいない。私だって、今夜もきっと、言い方がきつくなって、寝顔に「ごめんね」とつぶやく。
それでも、もう、自分を責めるのはやめにしよう。
いつか、子どもが大きくなって、誰かと家庭を築く日が来る。そのとき、きっと思い出すはずだ。本当に強い家族は、ぶつからない家族ではない。ぶつかっても、また手をつなぎ直せる家族だ。その姿を、私たちは毎日、背中で教えている。そして同じだけ、子どもに育てられている。
今夜は、できなかったことは、いったん忘れて。どうか、ゆっくり眠ってほしい。
心が変わると、すべてが変わる。——子どもも、夫婦も、人生も。
参謀医Reimyより
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免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。文中で紹介したわが子や外来の様子は、個人が特定されないよう改変・再構成しています。お子さんの様子が気になる状態が続く場合や、ご自身のつらさが2週間以上続く場合は、無理をせず、小児科・精神科・心療内科などの専門機関にご相談ください。
参考文献
- van Eldik WM, de Haan AD, Parry LQ, Davies PT, Luijk MPCM, Arends LR, Prinzie P. The interparental relationship: Meta-analytic associations with children’s maladjustment and responses to interparental conflict. Psychological Bulletin. 2020;146(7):553–594. doi:10.1037/bul0000233
- Davies PT, Colton KC, Schmitz C, Gibb BE. Interparental conflict dimensions and children’s psychological problems: Emotion recognition as a mediator. Child Development. 2024;95(4):1333–1350. doi:10.1111/cdev.14067
- O’Hara KL, Cummings EM, Davies PT. Interparental conflict and adolescent emotional security across family structures. Family Process. 2024;63(1):265–283. doi:10.1111/famp.12872
- Bandura A, Ross D, Ross SA. Transmission of aggression through imitation of aggressive models. The Journal of Abnormal and Social Psychology. 1961;63(3):575–582. doi:10.1037/h0045925
- Chen P, Geeraerts SB, Branje S. Learning from the past: Intergenerational transmission of aggressive conflict resolution between intimate partners predicts harsh and inconsistent parenting. Journal of Research on Adolescence. 2025. doi:10.1111/jora.70102


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