産後メンタルがしんどいあなたへ——精神科医の乗り越え方 参謀医Reimy

子育て

「なんで泣いてるのかわからない」——そう感じているあなたへ。産後のメンタルが崩れるのは当然の理由がある。そして、しんどいのは弱さじゃない。精神科医のわたしが、経験から伝えたいこと。

産後、精神科医のわたしが経験したこと

深夜3時。哺乳瓶を持ったまま、意識が飛びかけていた。

気づいたら、腕の中の子どもがずり落ちそうになっていた。

慌てて抱え直して、心臓がどきどきした。怖かった。でも次の瞬間には、また眠気が波のように押し寄せてきた。

これはわたし自身の話だ。精神科医として、産後メンタルについて患者さんに語ってきたわたしが、実際に経験したことだ。

産後の授乳サイクルが過酷な理由——「2時間おき」の本当の意味

少し恥ずかしい話をする。若手の頃、診察室で「ワンオペが辛くて」と話してくれた患者さんがいた。その時わたしの頭に浮かんだのは、「手術を一人で行うこと」という本来の意味だった。当時、ワンオペという言葉はまだ出始めたばかりだったとはいえ、それほどわたしは日常の子育てから遠い世界にいた。
自分が産後を経験して、初めてわかった。ワンオペがどれほどのことか、を。

夜中1人での授乳は、当直の何倍もきつく思えた。
何日か連続で当直したことがあるけれど、何日間であれば終わりが来る。
もちろん授乳期間も終わりは来るけれど、月単位、年単位なので終わりが全く見えない。

ミルクの準備から始まる。お湯を沸かして、適温まで冷ます。たったそれだけのことが、寝不足の頭には重たくのしかかる。その間も赤ちゃんは泣いている。

準備ができたら、左右10分ずつ母乳をあげる。ミルクを15分。ゲップを出す。寝かしつける。おむつ替え。また寝かしつける。

「2時間おき」というのは、授乳を始める間隔のことだ。ゲップや寝かしつけの時間は含まれていない。ゲップと寝かしつけだけで1時間以上かかることもある。つまり、ようやく寝かしつけが終わったと思ったら、もう次の授乳の時間が来ている。

眠れない、というより、眠る時間が存在しない。

母乳は全然出なかった。切開した傷は痛かった。全体的にかぶれて、痛いのに痒かった。鎮痛剤の影響か、首からお腹にかけて発疹が出て、熱が38度を超えた。お腹も下した。主治医と相談して、鎮痛剤は中止になった。

身体がボロボロのまま、見た目ではボロボロに見えづらいが、それでも2時間おきに起き続けた。

産後にメンタルが崩れるのは当然——ホルモンと睡眠不足が原因

産後、女性の体内ではエストロゲンとプロゲステロンというホルモンが急激に低下する。妊娠中に高い状態を保っていたホルモンが、出産直後に一気に落ちる。この変動の幅は、月経前のPMSとは比べ物にならないほど大きい。

そこに重なるのが、慢性的な睡眠不足だ。

人は睡眠が足りないだけでも、理由もなく不安になりやすい。それなのに産後は、不安材料が山積みだ。赤ちゃんは大丈夫か。ゲップはちゃんと出せたか。吐き戻して窒息していないか。うつ伏せセンサーという便利なものがあると聞いたけれど、あっても結局何度も確認してしまうだろうと思った。目を閉じることが、怖かった。

これは「メンタルが弱い」のではない。脳と身体が、限界を超えているサインだ。

産後うつとマタニティブルーズの違いとは?症状と期間を整理する

よく混同されるこの2つ、整理しておきたい。

マタニティブルーズは、産後数日以内に始まり、2週間以内に自然に治まることが多い。涙もろくなる、気分が沈む、といった症状が特徴だ。ホルモンの急激な変化による、いわば生理的な反応。

産後うつは、産後数週間〜数ヶ月にかけて発症し、より長く、より深く続く。眠れない、何も楽しくない、自分や赤ちゃんを傷つけたいという気持ちが出てくる場合は、専門家への相談が必要だ。

日本では、産後うつは約10〜15人に1人が経験するとされている。決して珍しいことではない。

産後のしんどい夜を乗り切る工夫——精神科医が実践したこと

精神科医として、ひとつ知っていたことがある。以前このブログで書いた脳の予約——「楽しみを先に置くと、脳はそこに向かおうとする」である。だから夜中の授乳を、苦痛な時間ではなく、自分だけのご褒美時間にしようと決めた。そう考えたら、産後はご褒美時間ばかりに変わる。

イヤホンをして、YouTubeやNetflixを見る。同じように深夜の授乳を乗り越えているお母さんの動画、子育てグッズの紹介。「自分だけじゃない」と思える夜もあった。気分転換に「僕のヒーローアカデミア」を見たり、海外の不動産リアリティ番組で人間関係やインテリアを眺めたりもした。今世の中ではこんなことが流行っているのか、と知ることができたし、目の前の現実から少し離れるだけで、息ができた。

環境も整えた。トイレと入浴、食事以外はベッドから動かなくていいように。iPadを置ける台、おむつとミルクを手の届く場所に置ける椅子をベッド周りに配置した。小さなベッドが、自分だけのテントのような、こもれる場所になった。

気持ちがどんよりした時は、赤ちゃんが寝た隙に少しだけその場を離れた。家族と他愛ない話をするだけで、少し軽くなった。

昼間は、短い入浴時間もただ済ませるだけにしなかった。お湯の感触に意識を向けながら、今日の疲れや大変さが流れていくイメージをする。以前このブログで書いたシャワーマインドフルネスを、あの時期も続けていた。

そして、泣きたい時は泣いた。こらえなかった。涙を流すことは、弱さじゃない。溜まったものを外に出す、身体の知恵だから。

「耐える」のではなく、「整える」。

それが、あの時期のわたしの戦略だった。

産後がしんどいのはあなただけじゃない——精神科医も経験した

産後のお母さんの多くが、似たような夜を過ごしている。

「なんで泣いているのかわからない」「こんなはずじゃなかった」「わたしだけがうまくできていない気がする」——そう思っているのは、あなただけじゃない。

わたしも、子どもを落としそうになった夜があった。哺乳瓶を握ったまま意識が飛びかけた夜があった。精神科医でも、そうだった。

だから言わせてほしい。

しんどいのは、弱いからじゃない。あなたの身体と脳が、正直に反応しているだけだ。

産後メンタルの乗り越え方——幸せに過ごすための戦略「自分に許可を」

「助けを求めていい」と、自分に許可を出してほしい。

うまくできなくていい。泣いていい。休んでいい。

もし2週間以上、気分の落ち込みや不眠が続いているなら、産婦人科や精神科に相談することを考えてほしい。相談や受診することは、弱さじゃない。

そう、これは幸せに過ごすための戦略だ。

あなたが穏やかにいられることが、赤ちゃんにとって一番のギフトだから。

参謀医Reimyより

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