「最近、あの人、休みがちだな」
「メンタルの話だと、どう声をかけていいか分からない」
そんなふうに、立ちどまっていないだろうか。
ひとつでも当てはまるなら、この記事がきっと力になるはずだ。
- 部下やスタッフが「適応障害」と診断され、接し方に迷っている
- 復職してきた人がまた休みがちで、正直、現場がまわらない
- かといって厳しくも言えず、気をつかいすぎて、自分まで疲れてきた
読み終えるころには、こう変わっているはずだ。
👉 「励まし」でも「腫れ物扱い」でもない、ちょうどいい接し方が分かる。
👉 本人も周囲もつぶさない「仕事の減らし方・戻し方」が分かる。
👉 自分を責めずに、チーム全体を守る視点が手に入る。
こんにちは、参謀医Reimyです。
神職と参謀の家系に生まれた、精神科専門医。二児の母でもあります。
この記事は、「参謀医の職場メンタル・シリーズ」全3回の①【接し方・働かせ方編】です。
②では「これは甘え?」の見極めと受診のすすめ方を、③では上司・経営者自身の孤独とセルフケアを扱います。
適応障害は「心が弱いから」ではない
まず、ここだけは押さえてほしい。
適応障害とは、ざっくり言えば、
「ある環境やストレスに、心と体がうまく適応できず、強い苦痛や生活への支障が出ている状態」のことだ。
大事なのは、ここ。
適応障害は、その人の性格が弱いから起きるのではない。
「ストレスのもと(環境)」と「本人」のミスマッチから起きる。
たとえるなら、サイズの合わない靴。
足が悪いのではなく、靴が合っていない。だから、まめができる。
そして、ここが上司にとっていちばん大事なポイントだ。
合わない靴(環境)は、取り替えられる。
実際、適応障害の多くは、ストレスのもとが和らげば、改善に向かいやすいことが、研究でも報告されている(1)。
つまり、こういうことだ。
環境を変えられる立場の人=上司の関わり方しだいで、回復のスピードは大きく変わる。
これは、薬でも本人の根性でもなく、上司にしかできない仕事なのだ。
💡 上司が気づきたいサイン
遅刻・欠勤が増える/表情が乏しくなる/ミスや物忘れが増える/口数が減る。
→「気合いが足りない」ではなく、「環境が合っていないのかも」と一度疑ってみてほしい。
そして、ここでひとつ、大事なことを。
「気合いで乗り切れ」が通用しないのが、心の不調だ。
もちろん、心が元気なときなら、気合いや根性は、自分を奮い立たせる“燃料”になる。
でも、燃料が切れている人に「もっと燃やせ」と言っても、火はつかない。
まずは、燃料を補給できる環境を整える。
順番を、逆にしてはいけない。
なぜ今、「部下のメンタル」が上司の仕事になったのか
最近のホットな話題を、ひとつ。
世界保健機関(WHO)の報告によると、いま世界では、8人に1人以上が、なんらかの精神疾患を抱えているとされる(2)。
さらに最近の大規模な国際研究では、75歳までに、およそ2人に1人が、一生のうちに一度はなんらかの精神疾患を経験すると報告された(3)。
これはもう、「特別な誰か」の話ではない。
誰の身にも、いつでも起こりうる。ごくありふれたことなのだ。
日本でも、流れは同じだ。
職場のメンタルヘルスは、いま「個人の問題」から「組織の課題」へと、はっきり変わってきている。
2026年4月の法改正で、ストレスチェック制度の対象が広がり、これまで対象外だった小さな事業場にも、段階的に義務化が進んでいく(4)。
「心の病」が増えていると感じる企業は約4割。しかも、いちばん多い年代は10〜20代だという調査もある(5)。
つまり、これはもう、どこか遠い世界の話ではない。
どの職場でも、明日、自分のチームで起きうる話だ。
そしてカギを握るのが、いちばん近くにいる上司、つまりあなたなのだ。
私が現場で見た「これは本人のせいじゃない」話
正直に言うと、精神科医ばかりが集まる職場でさえ、メンタル不調の同僚への接し方は難しく、悩むものだ。
(まあ、みんな“接し方のプロ”なので、どこか安心感はあるのだけれど。)
専門家ですらそうなのだから、一般の会社なら、なおさらだろう。
ここからは、私自身が現場で経験した話をしたい。
かつての勤め先での出来事だ。
新しい患者さんを二人体制で診る「当番」があった。
ところが、組んだ相手が、遅刻や急な休みを続けるようになった。
どうやら、うつ病からの復職直後の方だった。
急に休まれ、遅刻され、結局、ほとんどを私一人でこなすことになった。
「すごく大変、キャパオーバー」というほどではない。
でも、自分の時間が、じわじわ削られていく感覚は、確かにあった。
回診の時間さえ、相手の当番分まで食われてしまう。
そして、どこかで「不平等だな」と感じてしまう自分もいた。
とくに引っかかったのは、給与は同じなのに、遅刻の頻度も、診る患者さんの数も、まるで違ったことだ。
同じ報酬で、これだけ労働の差がはっきり見えてしまうのは、つらかった。
しかも、それを周囲に話しても、どこか他人事。
制度の問題でもあるから、誰も、我が身のようには真剣になってくれない。
でも、しばらくして、はっと気づいたのだ。
責めるべきは、本人ではない。
休む可能性があると分かっているなら、最初から「休んでも回る人数」で当番を組んでおけばよかった。
二人ではなく、三人で。あるいは、新規の枠を最初から少なめに。
そうすれば、本人も「迷惑をかけた」と自分を責めずに済む。
周囲も、しわ寄せでつぶれずに済む。
問題は、復職した本人ではなく、「休む前提」で備えなかった、体制の側にあった。
これが今でも、私が職場のメンタル不調を考えるときの、原点になっている。
やってはいけないこと①|「仕方ない」で終わらせ、体制を変えない
部下を頭ごなしに責める。
これは、よほどの上司でなければ、やってはいけないと分かるはずだ。
では、こちらはどうだろう。
「あの人は病気だから、仕方ないよね」
そう言って、人数も仕事の量も、体制を何ひとつ変えずに終わらせていないだろうか。
一見、やさしい言葉に聞こえる。
でも、これも“本人のせいにして、手を打たない”という点では、責めるのと根っこは同じだ。
体制がそのままだから、しわ寄せは周囲に流れ続ける。
やがて、周りには不満や反感がたまっていく。
「あの人ばかり配慮されて、ずるい」と。
本人も、その空気を敏感に感じ取って、さらに追い詰められる。
つまり、「仕方ない」で止まると、全員が、じわじわ削られていくのだ。
復職や時短は、本人への「お情け」でも、「仕方なく」でもない。
チーム全体を守るための、れっきとした作戦だ。
「休む前提」で仕事を組むことは、本人にも、周囲にも、いちばん優しい。
やってはいけないこと②|減らした仕事の“あいた分”を放置する
もうひとつ、今度は私自身の「失敗」を正直に書く。
ある後輩に、患者さんを引き継いだときのこと。
最初から大変だろうと思って、本来「10人」だった枠を「5人」に減らしてから渡した。
よかれと思って、だ。
ところが——あいた「5人分」のスペースに、その後、次から次へと新しい患者さんが入ってしまった。
結局、後輩の負担は、ちっとも減っていなかった。
むしろ、新規対応が続いて、大変な思いをさせてしまった。
申し訳なかった、と今でも思う。
ここから学んだことは、はっきりしている。
仕事は「減らす」だけでは足りない。 減らした分の“あいたスペース”を、どう守るかまで決めないと、しわ寄せは必ずどこかに出る。
仕事を減らすときは、必ずセットで「減らした分は、当面うめない」というルールも置く。
これをやらないと、せっかくの優しさが、別の誰かを削る刃になってしまう。
正しい働かせ方|「減らす」より「設計する」4つの戦略
では、上司は具体的に何をすればいいのか。
もちろん、産業医や精神科医の助言に従うことは前提条件だし、
正確には、休職直前か復職後かで本人への対応は変わってはくるが、
私が現場で学んだ、全体的に言えることを、ざっくり4つにまとめる。
① 「休む前提」で人数・量を組む
復職者や不調者がいるなら、その人が休んでも回るよう、最初から少し余裕をもたせる。これは甘やかしではなく、リスク管理だ。
② 減らした“あき”を守る
仕事を減らしたら、「当面、そこはうめない」とルール化する。あいた瞬間に新しい仕事が流れ込めば、減らした意味がなくなる。
③ 戻し方は、本人と相談しながら段階的に
復職は「ゼロか100か」ではない。短時間・軽い仕事から、本人の様子を見て少しずつ。焦って戻すと、再発という最悪の結果を招く。
④ 配慮は“こっそり”、評価は“公平”に
特別扱いが目立つと、本人は「申し訳なさ」で苦しみ、周囲は不公平を感じる。仕事の調整は淡々と、声かけはいつもどおり。これが、いちばん本人をラクにする。
💡 ひとりで抱えないコツ
すべてを上司が一人で調整しようとしないこと。 産業医・保健師・人事と情報を共有しておくと、あなたの負担も、判断ミスも減る。
本人に合う場所をさがす|「適材適所」という考え方
動物園には動物が、植物園には植物がいる。
それぞれが、いちばん力を発揮できる場所にいる。
その場所にいるからこそ、役割を果たし、組織(動物園や植物園)の魅力にも貢献でき、何より、自分自身が、いちばん輝いて見える。
人も、同じだ。
いまの仕事や役割が、その人に合っていないだけ。そういうことは、よくある。
理想は、本人が「自分に合う場所」を見つけること。
上司の役割は、それを代わりに決めることではなく、見つけるのを手伝うことだ。
もちろん、「あなたは、こっちが向いていると思う」と提案するのもいい。
ただし、よかれと思った配置換えも、本人の気持ちを置き去りにすれば、ただの“押しつけ”になってしまう。
だからこそ、まずは本人に聞いてみてほしい。
「どんな仕事なら、力を出せそう?」と。
とはいえ、「これなら任せてください!」と胸を張れる人は、実は少ない。
そんなときは、消去法でもいい。
「できなくはない」くらいのものを候補に入れて、少しずつ絞っていく。
それでも、十分に“合う場所”は見えてくる。
まとめ:今回の要点
- 適応障害は「弱さ」ではなく、環境とのミスマッチ。だから上司が環境を変えれば回復は早まる。
- 「仕方ない」で終わらせて体制を変えないのは、責めるのと同じくらい危険。
- 仕事は「減らす」だけでなく、減らした“あき”を守るところまで設計する。
- 戻し方は段階的に。配慮はこっそり、評価は公平に。
- 合う場所は、押しつけず、本人と一緒にさがす。
よくある質問(FAQ)
Q1. 部下が適応障害と診断されました。まず、何をすればいいですか?
A. まずは「環境の調整」です。適応障害はストレスのもととのミスマッチで起こるため、本人を変えようとする前に、仕事量・役割・人間関係といった環境に手を入れられる余地が大きいのです(1)。主治医や産業医の意見も踏まえ、仕事を一時的に減らす、配置を見直すなどを検討してください。そのとき、減らした分の“あき”を当面うめないことも忘れずに。
Q2. 復職した部下が、また休みがちです。甘やかしすぎでしょうか?
A. 「甘やかし」ではなく「体制の問題」と捉え直してみてください。休む可能性があるなら、最初から休んでも回る人数で組むのが、本人にも周囲にもいちばん優しい設計です。叱って本人のせいにするだけでは症状が悪化し、チーム全体が崩れます。戻し方は、短時間・軽い仕事から段階的に。
Q3. 「適応障害かもしれない」部下に、どう声をかければいいですか?
A. 特別な言葉より、「普通に・さりげなく」が基本です。気をつかいすぎると、本人は申し訳なさで苦しみます。「最近どう? 無理してない?」くらいの自然な声かけで十分。責めるニュアンスは入れないこと。気になる状態が続くときは、産業医や専門機関への相談を、そっと促してください(くわしくはシリーズ②で)。
次回予告
接し方と働かせ方が分かったら、次に迷うのが「これは本当に病気?それとも甘え?」という見極めと、受診のすすめ方です。
シリーズ②【見極め・受診編】「これは甘え?」の線引きと、受診のすすめ方 へ続きます。
心が変わると、すべてが変わる。——経営も、組織も、人生も。
参謀医Reimyより
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・助言に代わるものではありません。症状や適切な対応には個人差があります。なお、本文中の体験談は、個人が特定されないよう、内容を一部改変して記載しています。気分の落ち込み・不眠・強い不安などが2週間以上続く場合や、つらさが大きいときは、ひとりで抱え込まず、かかりつけ医、産業医や地域の精神科などの医療機関・相談窓口にご相談ください。
参考文献
- Morgan MA, Spanovic Kelber M, Bellanti DM, et al. Outcomes and Prognosis of Adjustment Disorder in Adults: A Systematic Review. Journal of Psychiatric Research. 2022;156:498–510.
- World Health Organization. World Mental Health Report: Transforming Mental Health for All. Geneva: World Health Organization; 2022.
- McGrath JJ, Al-Hamzawi A, Alonso J, et al. Age of Onset and Cumulative Risk of Mental Disorders: A Cross-National Analysis of Population Surveys from 29 Countries. The Lancet Psychiatry. 2023;10(9):668–681. doi:10.1016/S2215-0366(23)00193-1
- 厚生労働省労働基準局安全衛生部. 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(法改正・対象拡大を含む).
- 労働政策研究・研修機構(JILPT). 「心の病」の増加傾向と年代別の状況. ビジネス・レーバー・トレンド 2026年1・2月号.
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