コミュニケーションは、才能じゃない。

コミュニケーション、共感、傾聴、精神科医、参謀医Reimy メンタル

あなたは、こんなことで困った経験はないだろうか。

・話したつもりが伝わらない
・機嫌が悪い人にどう接するか迷う
・アドバイスしたのに突き放される
・共感したつもりが逆効果になる
・相手と心の距離を感じる

私自身も、人付き合いに疲れる日がある。 それでも、伝え方を意識するだけで、関係はずっと楽になる。

この手紙を読むと、

・言葉より先に整えるべきものに気づける
・機嫌の悪い人との摩擦を減らせる
・支持的傾聴の本質が身につく
・本当の共感と、同情・同調の違いが理解できる
・相手が話してくれる空気のつくり方がわかる

ぜひ、読んで役立ててみてほしい。


精神科医をしていると、「社交性が高いですね」と言われることがある。同僚にも、上の先生方にも、そう言われてきた。

友人にも言われるし、家族にも言われる。でも同じ精神科医に言われると、結構嬉しい。最上級の褒め言葉に思える。

でも正直に言う。実はヘトヘトだ。

空気感が合わないと感じる人もいる。全力で場に合わせた後、一人になるとどっと疲れが来る。それでも「社交性が高い」と見られるのはなぜか。

それは才能ではない。意識と姿勢の積み重ねだ。

いろんな人にコミュニケーションのコツを聞かれることが多いので、今日はそれを書こうと思う。


外来が上手な先生と、そうでない先生の違い

若手の頃、外来が上手い先生を観察していた。

一見、たわいもない会話をしているように見える。天気の話、趣味の話。でもその会話の中に、今後の治療方針に必要な情報がさりげなく織り込まれている。生活リズム、家族関係、仕事の状況。患者さんは「ただ話した」と思っているが、先生はすでに必要なものを拾い終えている。

挨拶も上手だった。患者さんの名前を呼ぶトーン、目線の合わせ方、表情。それだけで診察室の空気が変わる。

外来が上手くない先生はどうか。情報収集が会話ではなく、質問の羅列になりがちだ。患者さんは「尋問されている」ような感覚になる。信頼関係は生まれにくく、本当のことを話してもらえなくなる。コミュニケーションとは、テクニックより先に、相手が「話してもいい」と思える空気をつくることだと気づいた。


全てが診察である

精神科の外来では、患者さんが部屋に入ってくる前から診察が始まっている。

ドアをノックするか否か。名前を呼ばれてから入室するまでの時間。その数秒で、集中力が続いているか、怒りやすさはどうか、移動が辛くなっていないか、ADLが落ちていないかが見えてくる。

就職面接や試験面接に似ているかもしれない。面接官は応募者が部屋に入ってきた瞬間にはすでに評価を始めている。精神科医も似ていると思う。短い診察時間の中で、いかに多くの情報を引き出せるか。それが外来の上手い先生と、そうでない先生の差になる。

興奮していたり怒りっぽい状態の患者さんへの対応も然りだ。感情的にならず冷静に話す。しかし長々とダラダラ続けない。早めに切り上げることで、患者さんの負担を減らす。これも立派なコミュニケーション戦略だ。

これは日常でも同じだと思う。職場で機嫌が悪い人と話すとき、相手の状態を見ながら話す量と時間を調整する。それだけで摩擦が減る。「全てが診察」という意識は、日常のあらゆる人間関係に応用できる。


支持的傾聴と共感が、信頼をつくる

精神科医が日々実践していることのひとつに、支持的傾聴がある。

ただ話を聞くのではない。相手の言葉を受け止め、否定せず、その人の感情に寄り添いながら聞く。「そうだったんですね」「それは辛かったですね」。たまに勘違いしてしまう人がいるが、ただ機械的に「そうだったんですね」と言えば良い、ということではない。しっかりと受け止め、心をこめたひと言が、患者さんに「この先生は自分のことをわかってくれる」という信頼感を生む (1)。

共感も同じだ。

共感とは「同じ気持ちになること」ではなく、「あなたがそう感じていることを、私は理解している」と伝えることだ。この違いは大きい。同情でも同調でもなく、相手の感情を尊重しながら自分を保つ。それが本当の共感だ (2)。

これは診察室の中だけの話ではない。職場でも、家庭でも、友人関係でも、この姿勢がコミュニケーションの質を根本から変える。アドバイスより先に、まず受け止める。その順番を間違えないことが大切だ。この技を巧みに悪用しているのが、詐欺師や洗脳する悪い人たちだ。きっとこの姿勢を演じて魅せるのが、上手すぎるのかもしれない。


言葉より先に、姿勢が伝わる

精神科の外来で痛感することがある。どれだけ正確な言葉を選んでも、声が硬ければ患者さんは緊張する。どれだけ丁寧な説明をしても、目が合っていなければ信頼は生まれない。言葉より先に、姿勢と表情が相手に届いている。

言葉と非言語のメッセージが食い違うとき、人は非言語のほうを信じる。「大丈夫ですよ」と言葉では言っても、表情が硬ければ患者さんはそちらを受け取る。これは精神科だけでなく、職場でも家庭でも同じだ。

社交性が高く見える人は、ここを意識している人だと思う。逆に言えば、言葉を磨く前に、表情と声のトーンを整えるだけでコミュニケーションは大きく変わる。難しいことではない。相手の目を見る。声を少し柔らかくする。それだけで、相手の受け取り方は全然違う。


社交性が高いと言われるけれど、実はヘトヘト

私が意識していることがある。

空気感が合わないと感じる人ほど、その人のことを知ろうとすること。何が好きで、何を大切にしていて、どんなふうに物事を感じているのか。理解できなくてもいい。ただ、知ろうとする姿勢を持つ。

その姿勢が、相手に伝わる。

でも正直に言うと、消耗する。一生懸命コミュニケーションを取ろうとすればするほど、エネルギーを使う。だからこそ、自分なりのリラックス法を持つことが大切だ。消耗しすぎると、次の誰かに向き合う力がなくなる。

コミュニケーション上手に見える人の裏側には、たいてい意識的な努力と、上手な回復の習慣がある。自分を回復させる知恵については、また改めて書こうと思う。


コミュニケーションは、才能じゃない。

コミュニケーションが得意な人を見て、「あの人は生まれつき社交的だから」と思ったことはないだろうか。

違う。

外来が上手な先生も、人間関係が円滑な人も、生まれつきの才能で動いているわけではない。相手を知ろうとする意識、聞こうとする姿勢、表情と声で伝わるものへの敏感さ。その積み重ねだ。

支持的傾聴も、共感も、非言語のコミュニケーションも、全て意識すれば磨ける技術だ。

きっと人生において、あなたは人間関係にたくさん悩むと思う。悩んで当然だし、悩んでいるということは一生懸命向き合おうとしている証だ。それは素晴らしいことだ。

疲れたら休んでいい。一生懸命向き合った後にヘトヘトになることは、弱さではない。それだけ本気で人と向き合った証だ。ヘトヘトの自分を褒めてあげて欲しい。

どんなにコミュニケーションが上手だと言われる人でも100点満点はいない。
自分のペースで、コミュニケーションをとっていこう。

参謀医Reimyより


参考文献

(1)Wampold BE. The alliance in mental health care: conceptualization, evidence and clinical applications. World Psychiatry. 2023;22(1):25-41.

(2)Decety J. Empathy in medicine: What it is, and how much we really need it. Am J Med. 2020;133(5):561-566.

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