「昔は私もワンオペで頑張ってたよ」
そう言われて、頷きながらも、心のどこかで「でも、何かが違う気がする」とモヤモヤしたことはないだろうか。
あなたが感じているそのモヤモヤは、気のせいではない。
今日は、わたしが友人と話していて気付いた、現代の母親たちが抱える「言葉にしにくい孤独」について、書いておきたい。
あなたが、こんな時に、読んでほしい。
・「昔は私もワンオペだった」と言われてモヤモヤした
・実家が近いのに、頼れずに苦しんでいる
・育休中なのに、仕事より疲れていると感じる
・SNSの「キラキラママ」を見るのが少し辛い
・責任感が強くて、いつも一人で抱え込んでしまう
この記事を読むと——
・「自分が弱いんじゃない」と心から思える
・モヤモヤしていた違和感が、スッと言葉になる
・実家が近くても頼れない辛さが、軽くなる
・SNSで疲れる本当の理由が分かる
・今日から試せる、孤独を和らげる方法が分かる
ぜひ最後まで読んでみてほしい。
友人が言っていた、3つの違和感
産後しばらく経って、友人や周りのお母さんたちと話す機会の中で、何度も話題になることがあった。
それぞれが違う場面で言っていた言葉が、今でも頭に残っている。
① 「昔は私もワンオペだったって言われる」
「お母さんや義母さんに、『昔は私もワンオペだったよ』って慰められた時、励まそうとしてくれているのは分かるし、ありがたいよ。でも心の中で、現代のワンオペの方が孤独感が強いんじゃないかって、思ってしまった。本当に理解してもらえているのかな、と思う」
昔と今ってだいぶ社会の構造が違うよね、と一緒に話していた。
そして、わたしも同じ状況になった時、まったく同じ気持ちになった。
② 「地域コミュニティはトラブルに飛び込む気がする」
「カフェやお店で子どもと一緒に交流会、っていうのがあって、行こうとしたけど、時間が合わなくて結局行けなかった。正直、ホッとした部分もあって。どんなママが来るか分からないし、トラブルに巻き込まれたくない。積極的にトラブルに飛び込むような気がしてしまうんだよね」
これも、わたしは深く頷いた。
行政も民間も、地域で繋がる場を作ろうとしてくれている。それ自体はありがたい。でも、行く側からすると、未知の人間関係に飛び込むのは、産後の疲弊した心にはハードルが高い。
③ 「育休って言葉、おかしくない?」
「育休って、『育児のために仕事を休む』って意味でしょ。でも、『仕事のために育児を休む』っていう呼び方はないよね。仕事休みは、文字通り仕事を休むこと。なのに育休は、育児を休む意味じゃない。『休』って字が、もうおかしいと思うんだよね」
これには、ハッとさせられた。
「育休」という言葉には、どうしても「お休み」の響きがにじむ。バケーションのような印象を与える。でも実態は、休みどころか、24時間体制の労働だ。
しかも、法律で定められた「育児休業」も、企業が独自に定める「育児休暇」も、どちらにも「休」という字が入っている。個人の言葉遣いの問題ではなく、制度の名前そのものが「仕事軸」で作られているのだ。
そもそも「育休」という呼び方自体が、仕事軸でしか育児を見ていない言葉なのかもしれない。
「休」という漢字をなくし、育児期間と呼んでもいいかもしれない。ただ、今さら言葉を変えても意味がない気もする。
介護休暇、産前産後休暇、育児休暇…、どうやら「休」という漢字が入っている名称は多い。どれもバケーションではない「休」だが、必要以上に周囲に申し訳ない気持ちになってしまう人が多いように思う。
データが示す、現代の母親の現実
主観的な話だけではない。
産後うつと診断される人の割合は、ここ十数年で大きく増えていることが、海外の大規模な研究で報告されている(1)。スクリーニングが普及して「気づかれるようになっただけ」では説明がつかない、明らかな増加だ。
日本でも、育児中の母親の孤立は深刻な問題として、国の母子保健政策の重要課題に位置づけられている(2)。
現代の母親が「しんどい」と感じているのは、個人の弱さではなく、構造的な問題なのだ。
なぜ現代のワンオペの方がしんどいのか
隣人に声をかけない時代になった
昭和の時代も、母親一人で育児を担うことは多かった。ただ、当時は地域の様子が違った。
今は、気軽に隣人に声をかけない。立ち話も明らかに少ない。情報はネットですぐ手に入るから、人に聞く必要すらない。特に都心では、それを強く感じる。マンションでは、転居の際に挨拶をする住人すら減ったと聞く。
「ワンオペ」であっても、昔は見えない形で多くの人が周囲にいた。 現代の「ワンオペ」は、文字通り誰もいない。質が違う。
実家が近くても、頼れない
わたしの実家も義実家も、1時間以内で行ける距離にある。距離だけ見れば恵まれている。
でも、親の健康面や親の都合があり、頼めないことが多い。義実家はとても優しくて協力的だが、高齢で健康面の心配もある中、義姉家族の面倒を多く見てくれている。だから頼みにくい。
物理的に近いことと、心理的に頼れることは、別物だ。
昭和の祖母は専業主婦が多く、孫の面倒を見る余裕があった世代だった。現代の祖父母世代は、自分たちも働いていたり、長寿化で自分の親の介護をしていたりする。世代まるごとの負担が、昔とは違う。
SNSという新しい比較地獄
そして、現代特有の最大の問題が、SNSだ。
インスタを開けば、雑誌のようなキラキラママの世界が広がっている。離乳食は色とりどりで、赤ちゃんはニコニコで、夫婦は笑顔。一方の自分は、髪も洗えず、汗だくで授乳している。
しかも厄介なことに、苦労した過程をわざわざ載せている投稿ですら、結局は「こんなに私は頑張ったんです」というキラキラエピソードになっている。汗水垂らした経緯すら、写真の中ではフォトジェニックに加工されている。
そして最後に、「結果こんな素敵なものができたんです」というトドメを刺される。
「母親なら、子どもに最善を尽くして当たり前」という、現代特有の見えない圧力がある。こうした圧力が母親の心の余裕を奪い、不安やストレスを増やすことは、研究でも示されている(3)。
SNSは、この圧力を24時間休みなく、母親に届け続ける。
「働いていないなら、時間あるでしょ」という誤解
世の中、どうしても「育休中なら一人でできるでしょ」「働いていないなら時間あるでしょ」と思われがちだ。
でも、現実はその逆だ。
仕事をしていれば、強制的に育児から遠ざかれる時間がある。自宅近くの保育園にも入れやすい。仕事をしていない場合は、保育園の優先順位が落ち、そもそも入れにくい。
2026年4月から、「こども誰でも通園制度」という新しい仕組みが全国でスタートした。就労していなくても、月10時間まで保育園に預けられる制度だ。
ありがたい制度ではある。
ただ、対応している保育園の数はまだ限られている。実際に調べてみたが、自宅から遠かったり、予約枠が取りにくかったりと、結構不便なのが現実だ。
そしてもう一つ、見落とされがちな大きな問題がある。
この制度の対象は、生後6か月から。つまり、産後直後の——一番しんどい時期には、使えない。
産後の母親が「助けてほしい」と一番強く感じる0〜6か月の間は、この制度の枠外に置かれている。
制度はある。でも、本当に必要な時期に、必要な人に届くかは別の話だ。
仕事の時間があることは、24時間育児をしているより精神的に楽な側面がある。仕事内容がストレスでも、その時間は自分の仕事に集中できる。通勤中の満員電車はストレスかもしれないが、それでも自分のための時間だ。
常に子どもと一緒だと、トイレの時も、料理中でも、子どもが昼寝中でも、子どもが気になってしまう。自分に集中するのは不可能だ。何か物音がすれば、子供のところに駆けつける。
自分は自分で管理できるけど、子どもは自分の力で完全に管理することはできない。
この「管理しきれないものに対する責任」を24時間負い続けることが、どれほど精神的に消耗するか。経験した人にしか分からない種類のしんどさだ。
責任感が強い人ほど、抱え込む
これは臨床現場で、何度も見てきたことがある。
高学歴の女性、キャリアウーマン、経営者——いわゆる「ちゃんとしている」女性たちが、産後うつやうつ状態で通院や入院をしているケースが、少なくなかった。
家族のサポートが全くないわけではない。でも、責任感が強いがゆえに、自分で抱え込んでしまう。「これくらいできないと」「人に迷惑をかけたくない」「自分のしんどさは大したことない」と。
恵まれた環境であっても、産後うつは発症する(4)。むしろ、責任感が強い人ほど発症しやすい印象すらある。
もしあなたが、「自分はちゃんとしている方だから大丈夫」「もっと大変な人がいる」と思っているなら——その思考自体が、危ないサインかもしれない。
産後の孤独は、社会全体の問題でもある
少し視点を広げて話しておきたい。
2026年6月、厚生労働省が発表した最新の統計によると、2025年に生まれた日本人の子どもの数は、67万1千人余り。統計を取り始めて以来、過去最少を更新した(6)。
国の想定より15年も早く、少子化が進んでいる。
子どもを「希望」ではなく「リスク」として意識せざるを得ない社会。「もう一人産もう」と思える環境ではない社会。
その背景には、現代の母親が一人で抱え込まざるを得ない、今の構造がある。
地域の繋がりが消え、SNSに比較を強制され、実家が近くても頼れず、仕事をしたくても体調面の問題でできない、「育休」という言葉に「休み」のニュアンスを押し付けられ、責任感の強い人ほど一人で抱え込む——。
産後の孤独は、個人の問題に見えて、社会全体の問題でもある。
あなたが今感じている孤独は、あなただけの問題ではない。社会がまだ解けていない大きな問題の、一部だ。
だから、あなたが自分を責める必要は、まったくない。
では、どうすればいいのか
最後に、対策について書いておきたい。
弱音を吐ける場所を、少しずつ増やしていく
弱音を吐ける場所は、まず一つあればいい。
信頼できる友人、ママ友、家族、医師、カウンセラー。誰でもいい。まずは一人、安心して話せる相手を見つけてほしい。
ただ、できればその先で、少しずつ吐ける場所を増やしていってほしい。
一人にだけ全部を預けてしまうと、相手も自分も苦しくなる。色々な人の話を聞ける環境に身を置くと、視野が広がる。「こういう考え方もあるんだ」「こんな解決法があったんだ」と、知らなかった選択肢に出会える。
ママ友、職場の先輩、同じ境遇の友人、SNSで見つけた信頼できる発信者、医師——立場の違う複数の人と繋がっていることが、結果的に自分を支えてくれる。
一つの繋がりに依存しない。でも、孤立もしない。「複数の細い糸」で支えられている状態が、一番強い。
「弱音を吐く」だけが、孤独解消ではない
これも大事なポイントだ。
孤独を感じた時、人に話すことだけが解決策ではない。
SNSやコミュニティから、意識的に離れることも、立派な対策だ。比較を強制してくるものから、距離を置く。
好きな動画を流す。好きな音楽を聴く。お気に入りのカフェのコーヒーを淹れる(授乳中はカフェインに注意)。短い散歩をする。
こうした「自分を取り戻す時間」は、孤独感や精神的な負担を確実に軽減する。社会的つながりが大事だと言われるが、「分かってもらえている」という感覚を自分で自分に与えることも、それと同じくらい大事だ(5)。
対処法は、一つに絞らなくていい。いくつもの引き出しを持っておくことが、しんどい時の自分を救ってくれる。
早めに、ドアを叩く
最後に、伝えておきたいことがある。
「まだそこまでではない」と思うくらいの時期が、実は受診のちょうどいいタイミングだ。
以下のサインが2週間以上続いたら、迷わず精神科や心療内科のドアを叩いてほしい。
・眠れない、または眠りすぎる
・食欲がない、または食べすぎる
・赤ちゃんが可愛いと思えない瞬間がある
・涙が止まらない日がある
・「消えてしまいたい」という気持ちがチラつく
・楽しいと感じることがなくなった
限界を超えてからでは、回復に時間がかかる。早めに動くことは、賢い選択だ。
あなたへ
「昔は私もワンオペだったから(大変だろうけどあなたも頑張って)」と言われた時、モヤモヤするかもしれない。
そのモヤモヤは、正しい。
昔と今は、違う。地域の繋がりが違う。SNSがある。実家との関係が違う。働き方が違う。「育児」に求められる質も違う。
あなたが弱いのではない。あなたの感じ方がおかしいのでもない。
ただ、社会の構造が変わっただけだ。
しんどいと感じているあなたは、おかしくない。
吐ける場所を少しずつ増やして、SNSから時々離れて、好きなものに触れる時間を取って——それでも辛い時は、早めに専門家のドアを叩いてほしい。
あなたが大きくなって母親になる頃は、また社会が変わっているかもしれない。でも、産後の孤独感は、きっとあると思う。今より大変かもしれない。
だから、困ったらこれを読んで、一人で抱えないでほしい。
参謀医Reimyより
参考文献
(1) Khadka N, Fassett MJ, Oyelese Y, et al. Trends in Postpartum Depression by Race, Ethnicity, and Prepregnancy Body Mass Index. JAMA Network Open. 2024;7(11):e2446486. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.46486
(2) Yamazaki S, Akiyama Y, Shinohara R, Yamagata Z. Social isolation among mothers caring for Infants in Japan: findings from the Nationwide Survey of Healthy Parents and Children 21. Maternal and Child Health Journal. 2022;26(8):1670-1678. doi:10.1007/s10995-022-03427-0
(3) Henderson A, Harmon S, Newman H. The Price Mothers Pay, Even When They Are Not Buying It: Mental Health Consequences of Idealized Motherhood. Sex Roles. 2016;74:512-526. doi:10.1007/s11199-015-0534-5
(4) Wenzel ES, Frye R, Roberson-Nay R, Payne JL. The neurobiology of postpartum depression. Trends in Neurosciences. 2025;48(7):469-482. doi:10.1016/j.tins.2025.05.005
(5) Holt-Lunstad J. Social connection as a critical factor for mental and physical health: evidence, trends, challenges, and future implications. World Psychiatry. 2024;23(3):312-332. doi:10.1002/wps.21224
(6) 厚生労働省. 人口動態統計(令和7年)速報値. 2026年6月3日発表.
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