「幸せな人生を勝ち取るための睡眠の質を高める戦略」
4時起きを勧めたけれど、ただ睡眠時間を削ればいいという話じゃない。それだと、せっかくの”秘伝の書”もただの精神論になってしまうから。
精神科医として伝えたいのは、まず最近よく聞く「睡眠負債」を溜め込まないためにも、「自分に合う睡眠時間」を正確に知ること。日中のパフォーマンスが最大になるのは、6時間かな、それとも7、8時間かな。
知っていた?17時間起きている脳は「酒気帯び運転」レベルまで低下する
「昨日はあんまり寝てないんだよね」と、どこか誇らしげに語る人もいるけれど、精神科医の視点から見れば、それは「泥酔状態で仕事をしています」と宣言しているのとほとんど変わらない。
オーストラリアのドースン博士が発表した有名なデータがある。それによると、17時間から19時間連続で起きている脳のパフォーマンスは、「お酒を飲んでほろ酔い」の時と同じくらいまで落ちてしまうことが分かっている。
例えば、朝6時に起きて、深夜の0時や1時まで起きているだけで、あなたの脳はすでに「酒気帯び」レベル。
前頭葉、つまり脳の「ブレーキ役」を担っている部分が真っ先に働かなくなるから、
いつもよりイライラしやすくなったり、注意力が散漫になってミスが増えたり、冷静に考えれば選ばないような、リスクのある選択をしてしまったりする。
お酒を飲んで大事な契約書にサインをしないのと同じように、睡眠不足の時に「人生の決断」をしてはいけない。それは、あなたが思っている以上にギャンブルな行為だ。
精神科医の私が、当直明けに「恐怖」を感じた理由
この怖さは、私自身が一番よく知っている。
大学病院に限らず、病院での当直明けで24時間以上起きている時の自分は、普段以上に注意力や集中力を高めるよう、必死に意識する必要があった。当直明けで疲れているのに、さらに脳に呼びかけ、鞭を打つ。特に研修医時代は辛かった。
そして当直明けに限って、大変な手術やカンファレンスが入ってしまうことが多々ある。寝不足で作業効率が落ちていると仕事が終わるのも遅くなり、負のスパイラルにはまってゆく。そんな経験がある方は多いのではないだろうか。
病院や科によって当直明けのルールは違うから、医者全員が同じ状況とはいえないけれど、私の所属する大学病院の精神神経科医局では、当直明けの医師が同じチームにいると、可能な範囲でその医師の仕事をカバーしてあげようという雰囲気がある。睡眠不足の脳は、お酒に酔っているのと変わらないくらい判断力が落ちると、精神科医は知っているからだと思う。
特に経営者など人を率いる立場の方ほど、「自分がやらないと」「自分がやらずに誰がやる」と思い、睡眠を削って仕事をしようとしがちだ。家では家事も頑張ろうとする。その姿勢は尊いけれど、睡眠を削ることで判断力が落ち、結果的にチーム全体のパフォーマンスを下げてしまうことがある。リーダーこそ、しっかり眠ることが仕事のうちだ。
精神科医が毎回必ず聞く「睡眠の質問」
精神科医の問診には、必ず聞くことがある。
食事、睡眠、排便状況。この3つは毎回欠かさず確認する。もちろん、体調や気分も聞くが、生活に関するこの項目は絶対に聞く。どれも、その人の病状と密接に関わっている。
「何時に寝て、何時に起きましたか?」
「どのくらい眠れましたか?」
入院中の患者さんにも聞く。消灯時間と起床時間が病棟ルールで決まっていても、実際に眠れている実感はあるか、眠剤を使ったか、効き目はどうだったかはこの診察で初めてわかる。
睡眠はその人の状態を映す鏡だ。いくつか例を挙げよう。
うつ病の方は、早朝に目が覚めてしまうことが多い。「眠れない」ではなく「早く起きてしまう」というのがうつ病の典型的な睡眠パターンだ。
躁状態の方は、夜中に作業をしていてほとんど眠れていない。本人は充血した目で、別に寝ていなくても全然平気だから、と話す。エネルギーが有り余っているように見えるが、これは脳が過活動状態になっているサインだ。これが続けば、近いうちに身体がついていけず倒れてしまう。
漠然とした不安が強い方は、眠剤や抗不安薬を飲んでようやく眠りにつける。眠れているように見えても、薬の力を借りている状態だ。
幻聴がうるさくなって眠れない方もいる。
このように、睡眠の状態を聞くだけで、その人が今どういう状態にあるのかが見えてくる。逆に言えば、あなた自身も自分の睡眠の質に敏感でいることが、心と体の変化に早く気づくための大切なセルフモニタリングになる。
眠れない時は、必ず原因がある
眠れない時は、必ず何らかの原因がある。
昼間寝すぎた。夕方以降にカフェインを取ってしまった。不安なことがある。考えすぎてしまう。仕事を夜にやっていたらどんどん覚醒してきた。夜勤や当直など、仕事で起きていなければならない。
赤ちゃんがいる家庭は、睡眠時間の確保が本当に難しい。交代制で夜の育児ができればいいけれど、実際はなかなかそうはいかないことも多い。これは睡眠の問題というよりも、環境の問題だ。責めなくていい。
眠れない自分を「意志が弱い」と思わないでほしい。眠れない理由が必ずあるから、それを一つずつ見つけていこう。
最新研究でわかった「睡眠負債の取り返し方」
最近の研究では、睡眠負債は翌日の夜に睡眠時間をしっかり確保した人なら死亡リスクは上がらないという報告もある。
つまり、昨日眠れなかったとしても、翌日しっかり眠れれば取り返せる可能性があるということだ。
ただしこれは「週末に寝溜めすれば平日は短くていい」という話ではない。できる限り毎日同じリズムを保つことが大前提で、やむを得ず眠れなかった時に、翌日しっかり補う、という使い方が正しい。
医師も当直明けに取り返せればいいのだが、現実はなかなかそうはいかない。でも、取り返せるチャンスがあるなら、迷わず眠ることを優先しよう。
自分に合う睡眠時間の見つけ方
「自分に合う睡眠時間」を知るために、私がおすすめしているのは睡眠記録だ。
1〜2週間、毎日これだけ書いてみてほしい。
面倒な人は、とりあえず3日間でもいいからやってみてほしい。
「起床○時、就寝○時、翌日の体調や気分の良し悪し(+簡単なエピソード)」
それだけでいい。難しいアプリも、高価なデバイスもいらない。紙とペンだけで十分だ。
睡眠外来では患者さんにもう少し詳しく記録をつけてもらうが、
日常生活に落とし込んで手軽に知る方法としては、これが一番シンプルで続けやすい。
私自身がやってみてわかったことがある。6時間ではパッと目が覚めやすい。でも7時間くらいの時の方が、体調も気分も割と良い。同じ「眠れた」でも、時間によって翌日のコンディションが違うのだ。
1〜2週間記録を振り返ると、「この睡眠時間の翌日は調子がいい」というパターンが見えてくる。それがあなたの最適睡眠時間だ。他の人の睡眠時間と比べなくていい。ショートスリーパーと呼ばれる4〜5時間で大丈夫な人もいれば、9時間必要な人もいる。あなたに合う時間が、あなたの正解だ。
睡眠負債を溜めない戦略|毎日同じリズムが「心」を守る土台になる
では、どうすればいいのか。
早起きをしたいなら、その分、寝る時間を逆算して早くするだけ。そして週末の寝溜めではなく、毎日同じリズムを守ること。
その一定のリズムこそが、どんな時でもあなたの心を守る一番の土台になる。
「しっかり寝る」ことも、幸せに生きるための立派な戦略の一つ。どう?これが、幸せな人生を勝ち取るための睡眠の質を高める戦略。あなたも自分なりのモーニングルーティンとセットで、夜の時間をデザインしてみてね。
参謀医Reimyより


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