産後がしんどいのは甘えじゃない|孤独と制度の壁にぶつかった精神科医の実話 参謀医Reimy

子育て

助けてほしい、楽になりたい。

そう思った時が、あった。

でも、その言葉をうまく口にできなかった。頼れる場所があるはずなのに、辿り着けなかった。そういう時の話を、しておきたい。

今まさに、しんどいと感じているなら。ママに話しにくい時も、あると思う。そんな時に、読んでほしい。

・ 実家にいても(パートナーがいても)孤独感がある
・ 眠れない夜が続き、いつ終わるかと考えてしまう
・ 赤ちゃんの泣き声が響く、一緒の部屋にいる時間が辛い
・ 「あなたは恵まれている」「昔は皆ワンオペだった」と言われてモヤモヤしたことがある
・ 助けを求めたのに、制度の壁に跳ね返された経験がある
・ 頼りたいけど、言い出せない

どれも、おかしいことではない。誰もが通る道だとわたしは思っている。

この記事を読むと——

・ 産後がしんどい「本当の理由」が分かる
・ 「恵まれているのに」という罪悪感が、スッと軽くなる
・ 制度の現実を知ったうえで、一歩踏み出せるようになる
・ 産後の孤独は、自分だけじゃないと思えるようになる
・ 精神科医でも苦労するのか、と少し気持ちが楽になる

ぜひ読んでみてほしい。


産後、心が削れた夜があった

産後は数ヶ月、わたしとあなたたちは一緒に実家で過ごした。

食事を作ってもらったり、話し相手になってもらったり、本当に助けてもらった。

でも、高齢のおばあちゃま(わたしの母)を夜中に起こすわけにはいかない。寝不足ですぐ体調を崩しやすいのを知っていたから。なんでも頼れるかといったら、そうではなかった。

昼間も眠れなかった。ほぼ徹夜状態が2〜3週間続いた時期があった。

家族みんながキャパオーバーで、どこか冷たい空気が流れることもあった。頼っているのに、頼り切れない。助けてもらっているのに、孤独を感じる。そういう矛盾した夜が、あった。

あれは本当に、心が削れた。

じわじわと何かが減っていく感じだった。特別な出来事があったわけでも、誰かに何かをされたわけでもない。眠れない夜が続いただけで、人はああなるのだと知った。

睡眠不足が続くと、感情の調節が難しくなる。

些細なことで涙が出たり、怒りやすくなったりするのは、弱さではなく脳が疲弊しているサインだ (1)。あの頃のわたしに、そう伝えてあげたかった。


「助けてほしい」が、届かなかった話

産後、里帰りで家族みんながキャパオーバーになっていたこともあり、産院でその状況を話した。

すると、市の育児・家事サービスについて役所に相談するよう勧められた。それで早速、相談しにいった。サービスについて教えてもらい、詳細は助産師訪問の際に案内してもらうように、と言われた。

救いの手があるかもしれない、と少し期待していた。

しかし、訪問の助産師さんからはこう言われた。

「優先度の高い方から利用してもらっている。家族の助けがないわけではない方が実際に利用しているケースはほぼなく、申し込んでもおそらく利用はできない。個人でシッターさんや家事代行を頼む方が現実的だ」と。

恵まれた環境で子育てできていることは、分かっている。シングルマザーの方々と比べたら、遥かに恵まれた状況にいることも、実感している。

それでも、あの言葉は少し刺さった。

孤独を感じることも、実家を気軽に頼れないことも、しんどいと感じることも。「恵まれているし、お金がないわけでもないでしょう。自分でなんとかできますよ」——そう片づけなければいけないのだろうか、と思った。

精神科医として言うと、恵まれた環境にあっても、産後うつを発症する人は結構いた。むしろ多かった印象だ。中には非常に深刻なケースもあった。しんどさに、順位はない (2)。


「助けを求めた」のに孤独なのは、なぜか

核家族が多い日本では、専業主婦や育休中だと、日中は自分と子どもだけの空間になりがちだ (3)。

家にいると、やることが次々と目につく。「やらなくてもいい」と思いながらも、「でもやった方がいい」という声が頭の中で鳴り続ける。やっても、やらなくても、頭の中は忙しい。気づいたら、ただそこにいるだけで疲れている。

「やるべきこと」が常に視界に入り続ける環境は、脳にとって慢性的な負荷になる。

休んでいるつもりでも、認知的には休めていない状態だ。これは意志の弱さでも怠けでもない。

どんなに親しい人がいても、似た状況にいる人や、気軽にすぐ捕まえて話せる相手がいるとは限らない。

最近はAIを話し相手にする人も増えているようだが、生身の人間とはやはり違う。声のトーン、間、その場にいてくれるという感覚。それは画面の向こうでは補えない。

孤独の本質は、「誰かがいるかどうか」ではなく、「分かってもらえているかどうか」だ (4)


AIに相談してみたら、救急車を呼ぶよう言われた話

AIについて、精神科医として伝えておきたいことがある。
AIの利用法には、注意が必要だ。

特に、精神科領域に関しては、強く危機感を感じている (5)。

心や生活、暮らしの問題は非常に複雑で、相談する人自身の言葉によってAIがあらぬ方向へ巧みに誘導してしまう側面がある。少し言葉は悪いかもしれないが、詐欺師が相手に共感しながら心をグッと掴んで、高価な壺を売りつけるのと少し似ているかもしれない。AIに悪意はない。でも、構造として似たことが起きうる。

AIは命に関わる可能性を前提に、かなり安全側へ判断するように設計されている。例えば、産後のつらさを「全然眠れない」「逃げたい」と相談すると、温かく寄り添う返事をしてくれる。つい「うんうん」と読み進めてしまう。

でも気づけば、最終的に「ホットラインに電話を」「救急車を呼んで」といったかなり究極な指示が出てくる。クリックすればすぐ電話もできてしまう。

産後の疲弊した頭でその流れに乗ってしまうと、必要以上に「わたしはそんなに重症なのか」「わたしはうつ病か」「赤ちゃんに危害を与えてしまうのか」と不安になることもある。過剰に不安を煽られ、まるで一種の洗脳みたいな状態が生まれてしまう (5)。

AIは話し相手として使えたり、わからない事を検索できるといった便利な部分もある。でも、産後のしんどさを相談する相手は、やはり生身の人間がいい。信頼できる友人やママ友でも、かかりつけの先生でも、まず声に出して話してみてほしい。


産後の孤独は「気のせい」ではない

産後しばらく経って、周りのお母さんたちと話す機会が増えてきた。

みんな似たような状況に見えても、「パパが帰ってくると赤ちゃんが二人になる」と笑う人もいれば、「パパがいない方が気楽に動ける」という人もいた。

同じ「産後」でも、家庭の数だけ事情がある。だから「あの人は平気そうなのに」と比べても、意味がない。あなたがしんどいなら、それはしんどいのだ。

産後は、ホルモンバランスが急激に変化する時期だ。感情が揺れやすくなるのは、体が正直に反応しているだけで、気のせいでも弱さでもない (2)。

眠れない状態が重なれば、脳の機能は確実に落ちる (1)。「なんでこんなことで泣いているんだろう」と思う必要は、全くない。

孤独感が強い時ほど、「自分だけがこんなにしんどいのかもしれない」と思い込みやすくなる。それも、脳が疲弊しているサインのひとつだ。


「パートナーがいる」のに孤独、という矛盾

産後の孤独として意外と語られないのが、「パートナーがいるのに孤独」という感覚だ (3)(4)。

パパは仕事をしている。家族のために働いている。それは分かっている。でも、同じ屋根の下にいるはずなのに、自分だけが違う世界にいるような感覚になることがある。

これは関係が悪いとか、愛情が薄いとか、そういう話ではない。

「産後の当事者にしか分からない世界」が存在するからだ。夜中の授乳、明け方の泣き声、昼間ひとりでいる静けさ。それを共有できていないと、同じ家にいても見えている景色が全然違う。

「分かってもらえない」と感じた時、それはあなたの感じ方が間違っているのではなく、体験が共有されていないだけだ。

責めることでも、責められることでもない。


最後に、あなたへ

助けを求めることは、正しいことだ。

それが届かなくても、求めたあなたは間違っていない。

ただ、あなたがいつかこれを読む時。ママに頼りたくても、ママの体調を心配して言いにくいこともあるかもしれない。パートナーに話しても「仕方ない」と思われそうで、言葉を飲み込むこともあるかもしれない。

そういう時のために、伝えておきたいことがある。

本当に限界を感じたら、精神科や心療内科のドアを叩いてほしい。「まだそこまでではない」と思うくらいの時期が、実はちょうどいいタイミングだ。限界を超えてからでは、回復に時間がかかる。早めに動くことは、賢い選択だとわたしは思っている。

病院を選ぶ時のことも、少し話しておきたい。

まず、通いやすい場所を選ぶこと。実家や自宅近く、職場近く、とにかく続けられる距離にあることが大事だ。どんなに良い病院でも、遠ければ通えなくなる。

次に、先生の経歴を確認すること。精神科医としての経歴があるか、医局に所属しているか、といった点を見るようにしている。ネット上の口コミは、正直当てにならないことも多い。でも、1%くらいの心の準備として、雰囲気や評判を眺める程度には見ている。以前、評判が非常に悪い婦人科クリニックに行って後悔したことがあるので、口コミを鵜呑みにはしないが、全く無視もしない。

一番頼りになるのは、友人やママ友など信頼できる人からの口コミだ。

そして、最後にもう一度、AIについて。

AIの言葉は、身に染みる。
脳が疲れ、心が弱っている時ほど、寄り添う言葉はじんわり入ってくる。
でも、AIに自分を支配されないでほしい。判断を委ねるのは、AIではなく、信頼できる生身の人間にしてほしい。

制度の壁にぶつかっても、頼れる人が見つからなくても。それはあなたのせいではない。ただ、社会がまだそこまで追いついていないだけだ。

どうか、しんどいを一人で抱えたまま、走り続けないでほしい。

もしこの記事を読んで「わたしのことだ」と思った人がいたら、一人で抱えないでほしい。あなたの話を聞いてくれる人は必ずいる。そして場所も、必ずある。

参謀医Reimyより


参考文献

(1) Khan-Afridi Z, et al. Impact of sleep on postpartum health outcomes: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Sports Medicine. 2025;59:584-593. doi:10.1136/bjsports-2024-109604

(2) Wenzel ES, Frye R, Roberson-Nay R, Payne JL. The neurobiology of postpartum depression. Trends in Neurosciences. 2025;48(7):469-482. doi:10.1016/j.tins.2025.05.005

(3) Takeda J, Takeda S, Hikiji W. Recent Trends in Maternal and Postpartum Suicide and Countermeasures. JMA Journal. 2022;5(2):176-182. doi:10.31662/jmaj.2021-0221

(4) Holt-Lunstad J. Social connection as a critical factor for mental and physical health: evidence, trends, challenges, and future implications. World Psychiatry. 2024;23(3):312-332. doi:10.1002/wps.21224

参考資料

(5) Moore J, Grabb D, Agnew W, et al. Expressing stigma and inappropriate responses prevents LLMs from safely replacing mental health providers. Proceedings of the ACM Conference on Fairness, Accountability, and Transparency (FAccT). 2025.


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