8通目で、怒りの正体について話したね。
怒りは二次感情で、裏には必ず「本当の気持ち」が隠れている、と。
今日は、その続き。
怒りと上手に生きるということが、実際にどういう姿なのか。
私が子どもの頃から、ずっと目の前で見てきた話をしようと思う。
【あの人たちのことを、今でも覚えている】
祖父の家には、色々な人が来た。
芸能界、政治、誰もが名前を知っているような会社を動かす人たち。
詳しくは言えない。でも、そういう人たちだった。
その人たちに、共通していたことがある。
むやみに声を荒げる人が、一人もいなかった。
でも、必要な場面では声が通った。
静かなのに、ちゃんと届く。そういう声だった。
物腰が柔らかくて、丁寧で。
私に対しても、子どもに対しても、同じように接してくれた。
でも、ただ優しいのとは違った。
部屋に入ってきただけで、空気が変わるような人たちだった。
怖くはないのに、なぜか背筋が伸びた。
子どもながらに、ぼんやりと思っていた。
「あ、この人たちは、本物だ」と。
もっとも、私にとってはそれが「普通」だった。
参謀である祖父の家に、そういう方たちが来ることが、日常だったから。
特別な人として身構えて見ていたわけじゃなくて、ただそこにいる大人として見ていた。
だから逆に、フラットに接することができていたのかもしれない。
【診察室で、もう一度気づいた】
これは、子どもの頃の記憶だけじゃない。
研修医の頃から、私は同じことを感じていた。
精神科の問診では、職業を必ず聞く。
生活スタイルや環境が、心の状態に直結するから。診察に欠かせない情報なの。
ある時、穏やかで物腰の柔らかい方が来た。
丁寧で、腰が低くて、こちらの話をきちんと聞いてくれる。
特別な方だとは、全く思っていなかった。
「お仕事は何をされていますか?」
その瞬間、少し空気が変わった。
仕事の話になった途端、静かなのに何かが滲み出てくる。
そして答えを聞いて、少し驚いた。
誰もが知っている会社の、社長だった。
診察室の外では、もっとオーラがある、と後で聞いた。
実は私、少し鈍いところがあって。他の人が「あの人すごいよ」と言っていても、気づかないことがある。
でも考えてみれば、子どもの頃からそういう方たちが父の家に来ていた。
私にとっては、それが普通だったのかもしれない。
だからこそわかることもある。
本当に大きな人は、こちらが身構える前に、普通にそこにいる。
肩書きを脱いで、一人の人間として、静かに座っている。
そして仕事の話になった瞬間だけ、すっと別の顔が出る。
父の家で感じたあの空気と、同じものだった。
威張らないけど存在感がある。
聞くまでわからないくらい謙虚でもある。
それは矛盾じゃなくて、同じ人間の、表と奥行きだった。
本物は、その場に必要な自分を、静かに出せる。
まだ駆け出しだった私に、それを教えてくれたのは、そういう方たちだった。
【感情を垂れ流さないから、ここぞの時に重みが出る】
じゃあ、あの人たちは怒りを感じない人だったのか。
違う、と思う。
経営者もリーダーも、当然腹が立つことがある。
裏切り、誤算、思い通りにならない人間。
むしろ私たちより、ずっと大きなものを背負っているから、怒りの種なんて山ほどあるはずだ。
でも彼らは、怒りを「情報」として使っていた。
今自分がこんなに腹が立っているということは、何かが脅かされているということだ。
何が大切なのかを、この怒りが教えてくれている。
そうやって内側で静かに処理できるから、外側は乱れない。
感情を垂れ流さないから、ここぞという時の言葉に、本当の重みが出る。
あの「必要な場面だけ通る声」は、そこから来ていたんだと思う。
【昔から、賢い人は同じことを言っている】
ローマ皇帝マルクス・アウレリウスは、こんなことを残している。
自分の内側を支配できない者は、本当の意味で自由ではない、と。
日本の武士道にも、怒りをむやみに表に出すことを戒める言葉が残っている。
感情をさらけ出すことは、隙を見せることだ、という考え方だ。
時代も場所も違うのに、みんな同じことを言っている。
本物の強さは、静けさの中にある、と。
父や祖父のそばに来た人たちも、研修医の頃に出会った方たちも、きっとそれを知っていた。
言葉で教えてもらったんじゃなくて、生き方でそれを体現していた。
【あなたに受け取ってほしいこと】
私は、あの背筋が伸びるような静けさを、言葉じゃなく空気で受け取った。
「どっしりしている」ということが、どういうことか。
それは子どもの私の体に、ちゃんと刻まれていた。
あなたにも、いつかわかる日が来ると思う。
怒りをうまく使える人は、相手を責めるより先に自分の内側を見る。
感情を爆発させるより、静かに本質を見抜く。
そしてそういう人のそばにいると、なぜか安心する。
あなたも、そういう人になってほしい。
怒りを感じることは、あなたが人間である証拠。
それをどこに向けるか、どう使うかを知っている人が、本当に強い人だと私は思う。
Dr.Reimy より

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