9通目:怒りを「使える」人になるということ

8通目で、怒りの正体について話したね。
怒りは二次感情で、裏には必ず「本当の気持ち」が隠れている、と。
今日は、その続き。
怒りと上手に生きるということが、実際にどういう姿なのか
私が子どもの頃から、ずっと目の前で見てきた話をしようと思う。

【あの人たちのことを、今でも覚えている】

祖父の家には、色々な人が来た。
芸能界、政治、誰もが名前を知っているような会社を動かす人たち。
詳しくは言えない。でも、そういう人たちだった。
その人たちに、共通していたことがある。
むやみに声を荒げる人が、一人もいなかった。
でも、必要な場面では声が通った。
静かなのに、ちゃんと届く。そういう声だった。
物腰が柔らかくて、丁寧で。
私に対しても、子どもに対しても、同じように接してくれた。
でも、ただ優しいのとは違った。
部屋に入ってきただけで、空気が変わるような人たちだった。
怖くはないのに、なぜか背筋が伸びた。
子どもながらに、ぼんやりと思っていた。
「あ、この人たちは、本物だ」と。
もっとも、私にとってはそれが「普通」だった。
参謀である祖父の家に、そういう方たちが来ることが、日常だったから。
特別な人として身構えて見ていたわけじゃなくて、ただそこにいる大人として見ていた。
だから逆に、フラットに接することができていたのかもしれない。

【診察室で、もう一度気づいた】

これは、子どもの頃の記憶だけじゃない。
研修医の頃から、私は同じことを感じていた。
精神科の問診では、職業を必ず聞く。
生活スタイルや環境が、心の状態に直結するから。診察に欠かせない情報なの。
ある時、穏やかで物腰の柔らかい方が来た。
丁寧で、腰が低くて、こちらの話をきちんと聞いてくれる。
特別な方だとは、全く思っていなかった。
「お仕事は何をされていますか?」
その瞬間、少し空気が変わった。
仕事の話になった途端、静かなのに何かが滲み出てくる。
そして答えを聞いて、少し驚いた。
誰もが知っている会社の、社長だった。
診察室の外では、もっとオーラがある、と後で聞いた。
実は私、少し鈍いところがあって。他の人が「あの人すごいよ」と言っていても、気づかないことがある。
でも考えてみれば、子どもの頃からそういう方たちが父の家に来ていた。
私にとっては、それが普通だったのかもしれない。
だからこそわかることもある。
本当に大きな人は、こちらが身構える前に、普通にそこにいる。
肩書きを脱いで、一人の人間として、静かに座っている
そして仕事の話になった瞬間だけ、すっと別の顔が出る。
父の家で感じたあの空気と、同じものだった。
威張らないけど存在感がある。
聞くまでわからないくらい謙虚でもある。
それは矛盾じゃなくて、同じ人間の、表と奥行きだった。
本物は、その場に必要な自分を、静かに出せる
まだ駆け出しだった私に、それを教えてくれたのは、そういう方たちだった。

【感情を垂れ流さないから、ここぞの時に重みが出る】

じゃあ、あの人たちは怒りを感じない人だったのか。
違う、と思う。
経営者もリーダーも、当然腹が立つことがある。
裏切り、誤算、思い通りにならない人間。
むしろ私たちより、ずっと大きなものを背負っているから、怒りの種なんて山ほどあるはずだ。
でも彼らは、怒りを「情報」として使っていた
今自分がこんなに腹が立っているということは、何かが脅かされているということだ。
何が大切なのかを、この怒りが教えてくれている。
そうやって内側で静かに処理できるから、外側は乱れない
感情を垂れ流さないから、ここぞという時の言葉に、本当の重みが出る
あの「必要な場面だけ通る声」は、そこから来ていたんだと思う。

【昔から、賢い人は同じことを言っている】

ローマ皇帝マルクス・アウレリウスは、こんなことを残している。
自分の内側を支配できない者は、本当の意味で自由ではない、と。
日本の武士道にも、怒りをむやみに表に出すことを戒める言葉が残っている。
感情をさらけ出すことは、隙を見せることだ、という考え方だ。
時代も場所も違うのに、みんな同じことを言っている。
本物の強さは、静けさの中にある、と。
父や祖父のそばに来た人たちも、研修医の頃に出会った方たちも、きっとそれを知っていた。
言葉で教えてもらったんじゃなくて、生き方でそれを体現していた。

【あなたに受け取ってほしいこと】

私は、あの背筋が伸びるような静けさを、言葉じゃなく空気で受け取った。
「どっしりしている」ということが、どういうことか。
それは子どもの私の体に、ちゃんと刻まれていた。
あなたにも、いつかわかる日が来ると思う。
怒りをうまく使える人は、相手を責めるより先に自分の内側を見る
感情を爆発させるより、静かに本質を見抜く
そしてそういう人のそばにいると、なぜか安心する。
あなたも、そういう人になってほしい。
怒りを感じることは、あなたが人間である証拠
それをどこに向けるか、どう使うかを知っている人が、本当に強い人だと私は思う。


Dr.Reimy より

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