10通目:「あの人はいいな」――その悔しさを、武器にする方法

9通目で、怒りを「情報」として使える人の話をしたね。

今日は、その怒りの奥にある、もう一つの感情について話したい。

それは、比べること。

子どもも経営者のような立派な大人も、同じ罠にはまる

「あの人はいいな」と思ったことが、あるんじゃないかな。

子どもなら「あの子はいいな」。

大人なら「あいつはいいな」。

経営者なら「あの会社はいいな」。

言葉は違っても、その悔しさの正体は、みんな同じだ。

比べること自体は、悪いことじゃない。

でも、比べる相手を間違えると、人は静かに消耗していく。

挽回、挽回、集中、集中!

小学生の頃、テストでケアレスミスをして落ち込んでいた私に、父はこう言った。

「挽回、挽回、集中、集中!」

正直に言う。

あの言葉が、嫌いだった。

落ち込んでいる私に、寄り添ってもくれないで。

悔しくて、悲しくて、なんか腹も立った。

でも大人になって、精神科医になって、たくさんの人と向き合ってきて、ようやくわかった。

父は私を責めていたんじゃなかった。

ミスした私を、次の問題に向かわせようとしていた。

「過去のミス」と「自分」を切り離して、前を向かせようとしていた。

感情に寄り添うことと、前に向かわせることは、別のことだ。

本当に子どもを信じている人は、時に「挽回」と言える。

あの言葉は、突き放しじゃなかった。信頼だった。

「挽回」という言葉の主語は、自分だ。

誰かに助けてもらうんじゃなくて、自分で取り返しに行く、という言葉。

だからあの言葉は、慰めでも励ましでもなかった。

「あなたなら自分でできる」という、静かな信頼だった。

気づくのに、ずいぶん時間がかかったけれど。

比べても、絶対に勝てない相手がいる

上を見れば、キリがない。

足が速い子より速い子が、必ずいる。

売上が高い会社より高い会社が、必ずある。

「あの人はいいな」と思い続けていると、どこまで行っても満たされない。

なぜかわかる?

その比較は、「自分が幸せになるための比較」じゃないから。

「自分はまだ足りない」を確認するための比較になってしまっているから。

精神科の言葉で言うと、これを「上方比較」という。

モチベーションの燃料にもなる。でも使い方を間違えると、自分を燃やし苦しめ続ける火になる。

比べるなら、昨日の自分と

父のあの言葉の裏に、もう一つ気づいたことがある。

「挽回」って、誰かと比べる言葉じゃないということ。

Aくんより点数が高かった、じゃなくて。

さっきミスした自分より、次の自分が上回れ、ということ。

比べる相手は、昨日の自分でいい。

勉強が得意になったかじゃなくていい。

昨日より少し早起きできた。

嫌なことがあったけど、泣く前に言葉にできた。

それだけでいい。

経営者だって同じ。

ライバル会社より売上が上かじゃなくていい。

去年より、お客さんとの信頼が一つ深まったか。

チームの誰かが、一つ成長できたか。

それを積み上げられる人が、静かに、確実に、遠くまで行く。

あなたに受け取ってほしいこと

「あの人はいいな」と思ったとき、少しだけ立ち止まって。

その悔しさは、あなたがまだ本気だという証拠。

だから、捨てなくていい。

ただ、向ける先だけ変えてみて。

私はあの「挽回」って言葉が悔しくて嫌いだった。

でも今は、その言葉のおかげで、ここにいると思っている。

あなたにも、いつかそう思える日が来るといい。

Dr.Reimy より

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